あれは高校2年の春、部活の帰り道だった。
テニス部の練習が終わって、部室の裏で自転車の鍵を探していたとき、ふいに背後から声をかけられた。
「先輩っ」
振り返ると、ひとつ下の1年生、結月(ゆづき)が立っていた。いつも部活の練習試合を見に来ていた子で、後輩とはいえ顔は何度か見たことがあった。
「えっと…少し、いいですか?」
夕焼けが彼女の横顔を染めていて、なんかその時点でもう、ただ事じゃないなって空気だった。
そして、言われたんだ。
「ずっと前から、好きでした。もしよかったら…付き合ってもらえませんか?」
ほんとに漫画みたいなシチュエーションだった。頭の中、真っ白で。
でも、彼女の手が小さく震えていたのだけは、ちゃんと覚えてる。
正直、恋愛に興味がないわけじゃなかったけど、後輩からの突然の告白に戸惑ったのも本音で。
それでも、勇気を出してまっすぐ気持ちを伝えてくれた彼女の姿に、心が動いた。
「俺でよかったら…よろしくお願いします」
って答えたら、結月は本当に嬉しそうに笑って、小さく「ありがとうございます」って言ってた。
その一週間後、はじめてのデート。
場所は、駅前のショッピングモール。映画を観て、そのあと屋上のベンチで話した。
「なんか、映画の内容、あんまり覚えてないね」
「うん、緊張してて…でも、一緒にいられるだけで十分だった」
夕暮れの空、少し肌寒い風。
彼女が何気なく差し出してきた手。
それに、自然に自分の手を重ねた瞬間。
たったそれだけのことで、心臓が跳ねるように鼓動を打った。
「手、冷たくない?」って聞いたら、彼女は「でも、あったかいですよ」って言ってくれて。
キスなんてまだ早い、って思っていたけど、彼女がそっと肩に頭を預けてきたあの瞬間は──
たぶん、自分の中で一生忘れられない「恋が始まった日」だった。
あれから何年も経つけど、あの春の夕暮れと、初めてのデートで感じた甘い緊張感は、今でもふと思い出す。
大人になってからの恋愛とは違う、少し不器用で、でも真っすぐな気持ち。
忘れたくない、高校生の恋の思い出。