「ごめん、熱出た…。今日行けそうにない…」
スマホに届いたメッセージを見て、私は一瞬フリーズした。
チケットはすでに取ってある。行き先はディズニーシー。
平日に有休を取って、大学時代の友達と2人で行くはずだった。
ドタキャンとはいえ仕方ない。
でも、せっかくの有休をただ家で寝るのは嫌だった。
「……行こう。ひとりでも」
もともとパークは大好きだし、ひとりで過ごすのも嫌いじゃない。
けど、この判断が、まさか“人生で一番印象的な一日”になるなんて、そのときは全く思っていなかった。
チケットをかざしてゲートをくぐると、風の匂いまで違って感じる。
ふわっと広がるポップコーンの匂い、ショーの音楽、浮かれた声。
それだけで少し気持ちが上向いた。
ソアリンに並ぼうと向かった途中、ポップコーンワゴンの列で、ひとりの男性と並んだ。
カジュアルな格好で、手にはガイドマップ。たぶん、ひとり。
「……一人ですか?」
自分でも驚いた。まさか自分から話しかけるなんて。
「え、あ、はい。友達が来れなくなって…」
「あ、同じです。俺も。妹と来る予定だったのに、急に子ども熱出しちゃって」
「そっか…じゃあ、お互い…ソロですね」
「はい。さびしいけど、まぁ楽しまないともったいないんで」
それだけの会話だったのに、不思議と居心地がよかった。
そして、次に向かったソアリンの列でまた彼と遭遇。
「また会いましたね」
「ですね(笑)」
思わず、「一緒に並びます?」と口から出ていた。
彼の名前は直樹さん。
都内で営業職をしていて、29歳。私は27歳。
同世代ということもあって話がしやすかったし、なにより“人懐っこすぎない空気感”がちょうどよかった。
「ひとりディズニーって、案外ありですね」
「ですよね。写真とか撮ってもらえるし(笑)」
「え、じゃあさっきのレストランで撮ってもらったやつ、送りましょうか」
「えっ、いいんですか?お願いします!」
それから気づけば、アトラクションも、パレードも、全部一緒に回ってた。
「これ、完全にデートっぽくないですか?」
「それ言っちゃいます?(笑)」
「いや、なんか普通に楽しくて。…付き合ってもいない人と1日一緒に遊ぶって、なかなかないですよね」
「たしかに。でも、今日はちょっと特別かも」
お互い名前も知らなかったのに、気づけば自然に笑い合ってた。
その感覚がくすぐったくて、心地よくて、どこか懐かしいような気さえした。
夜になって、プロメテウス火山の前で見るショーを見ながら、ふたりでベンチに座った。
光と音の中で、彼がポツリと呟いた。
「明日からまた、普通の生活だなぁ…」
「ほんとですね。今日が夢みたいだった」
沈黙。けど、それも嫌じゃなかった。
「…また、会えたらいいですね」
「会いましょうよ。今度は、ちゃんと約束して」
そう言った私に、彼はちょっと驚いた顔をして、すぐに笑った。
「…連絡先、交換しません?」
帰りの電車の中で、LINEを開くと、彼からスタンプが1個。
「今日はありがとう。ほんとに、最高の偶然でした」
私の中でも、それは間違いなく“運命の偶然”だった。
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