たぶん、もう二度と会わない人。
でも、毎晩のように夢に出てきて、
そのたびに、また少しだけ、好きになる。
現実の出会いは、ほんの一瞬だった。
駅のホームで隣に立って、
同じ本を読んでたことに気づいて、
思わず笑ってしまった。
それだけ。
会話すらなかったのに、
なぜか、忘れられなかった。
数日後、夢に出てきた。
あなたは、夢の中で話しかけてくれた。
「この本、いいよね」って。
目が覚めたとき、
なんだか、本当に話したような気がして、
少し胸が温かかった。
そこから何度も、夢に現れた。
海辺を歩いたり、
図書館の窓辺で話したり。
その全部が、現実より鮮明だった。
名前も知らないのに、
夢の中では、ちゃんと「あなた」だった。
現実では、
あの日の駅でしか会っていないのに。
それでも、夢の中のあなたが、
わたしの心を少しずつ、変えていった。
本を読む時間が増えた。
空を見上げるようになった。
ちょっとだけ、優しくなれた気がした。
ある日、夢の中であなたが言った。
「もう、そろそろ会えなくなるかもね」
わたしは、なぜか泣いていた。
「今までありがとう」
「わたしも、会えてよかったよ」
目が覚めたら、
胸がぎゅっとしてた。
もう夢には出てこない。
でも、
その人が夢にくれた“優しさ”は、
確かに今のわたしをつくっている。
恋だったのか、憧れだったのか。
答えなんて、どうでもよかった。
ただ、
夢の中で出会って、何度も何度も、また好きになった。
それだけで、
この人生は少しだけ、美しくなった気がする。