卒業式の日、先生じゃなくなるのを待ってた

中学三年の春、
その人が教育実習生として教室に入ってきたとき、
教室中がざわついた。

「若っ」「イケメンじゃん」「絶対人気出るやつ〜!」

その空気に私も飲まれてたけど、
最初の自己紹介で見せた、ちょっと照れた笑顔が忘れられなかった。

担当は美術。
私は絵が得意じゃなかったけど、
“あの先生に褒めてもらいたい”一心で、今までで一番真剣に描いた。

休み時間に作品を見てくれて、
「ここ、すごく好きなタッチだね」って言ってくれた。

それだけで、3日くらい幸せだった。

でも、私は生徒で、先生は“先生”だった。
教育実習が終わるとき、クラスの女子はみんなお手紙を用意していたけど、
私は出せなかった。

名前も書かずに、
ただ「ありがとうございました」ってだけの手紙。
机にそっと置いて、帰った。

卒業式の日。
花道を通るとき、
あの先生が、花束を持って立っていた。

私の顔を見て、ほんの一瞬、笑った気がした。

それから2年が経って、
偶然、商店街で再会した。

「……もしかして、○○中学の?」
「えっ……先生!?」

そこから連絡を取り合うようになって、
はじめはお互いに“気を遣ってた”。

でも、ある日彼が言った。

「ずっと、卒業してから会えたらいいなって、思ってた」

あの時、名前のない手紙の字を、彼は覚えていたらしい。

「卒業式の日、笑ってくれましたよね」
「うん。だって──一番印象に残ってたから」

それからの恋は、
“先生と生徒”じゃなくて、“ひとりとひとり”の関係だった。

肩書きも、制服も、時間も、全部越えて、
ようやく同じ場所に立てた気がした。

初めて手をつないだ日は、
あの卒業式と同じ、春の匂いがした。