あと5日で、世界が終わるなら

「……あと5日だってさ」

そのニュースは、学校の昼休みに流れた。テレビ画面に映る政府の発表に、教室はざわつき、誰もが笑っていた。「また大げさな演出でしょ」って。でも、俺はわかってた。あれは嘘じゃない。

というのも、ちょうど30分前、空から降ってきた隕石の破片が校庭に突き刺さって、そこにいた猫が一瞬で灰になったのを見てしまったから。

世界が終わる。それは現実だ。しかも、5日後。

その瞬間、俺の頭に浮かんだのは……理科のノートでもなければ、やり残した課題でもなくて。たった一つ。

「咲良(さくら)に、好きって言いたい」

咲良とは中学のときから同じクラスで、なんとなく目で追ってた存在。気取らないけど目立ってて、笑うと口元にできるえくぼが可愛い。ずっと、話すタイミングを探してて、でも俺はいつも「まだ早い」って逃げてた。

でも、もう「早い」とか「遅い」とか言ってられない。

終わるんだ。全部。

2日目。世界はまだ普通だった。コンビニのレジも動いてたし、部活もあった。だけど、校内の空気は明らかに変わってた。

「マジで滅亡すんのかなー」
「じゃあさ、告白しちゃえよ!」

誰かがふざけて叫んで、誰かが笑って。でもその中には、何かに追われるような真剣さがあった。

その日、3組のカップルが誕生した。あとで聞いた話だけど、2組は初めて手を繋いで、もう1組は教室の隅で泣きながらキスをしたらしい。

俺は、まだだった。

3日目の昼。俺はとうとう、咲良に声をかけた。

「なあ、ちょっとだけ……放課後、時間ある?」

「うん。……あるよ」

咲良は、いつもと変わらない笑顔だったけど、たぶん全部わかってた。世界が終わるってことも、俺がずっと好きだったことも。

夕暮れの校舎裏。日が沈みかけてて、空がオレンジ色だった。風が冷たくて、でも咲良は手をポケットに入れたまま、じっと俺を見てた。

「俺さ、咲良のこと、好きなんだ」

「……うん、知ってた」

「えっ?」

「なんとなく。いつか言ってくれるかなって思ってた」

咲良は一歩、俺に近づいた。近くで見ると、まつ毛が長くて、目の奥に少し涙が溜まってた。

「嬉しいよ。私も……好き」

世界が終わるってわかってるのに、こんなに幸せで、どうしたらいいかわからなかった。

そのあと、手を繋いで、ずっと歩いた。言葉はなかったけど、全部伝わってた。

4日目。咲良といられる時間は全部使った。授業は適当で、昼休みも、放課後も、家に帰る時間さえ削って、隣にいた。会話は少なくていい。触れる指先と、たまに見つめ合う目と、静かな笑い声だけで、じゅうぶんだった。

誰かが言ってた。「終わる前に恋して良かった」って。俺もそう思った。終わるから、じゃなくて、出会えてしまったから。好きになってしまったから。伝えるしかなかった。

5日目。空は青く、静かだった。

テレビの速報は「午後2時、接触」と言っていた。

咲良と約束していた。正門前で、1時に待ち合わせ。

最後の時間を、いっしょに迎えようって。

俺が着いたとき、咲良はすでにいた。制服のままで、リュックにはお気に入りのぬいぐるみを入れてきたらしい。

「最後だから、恥ずかしいこと言っていい?」

「なに?」

「生まれ変わっても、また君に恋する」

俺は泣いた。何も言えなかったけど、泣きながら手を握り返した。そしたら咲良も泣いた。

空に光が走った。

ああ、本当に終わるんだ。

でも、怖くなかった。

「……ねえ、手、離さないでね」

「絶対離さない」

午後2時。

世界は、静かに、消えた。

でも、ふたりの心は、確かにそこで繋がったままだった。

終わり。

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