「一緒に帰ろっか」
高校の帰り道、彼はいつもそう言ってくれた。
教室の窓際、三列目。私の席の斜め前。
声をかけてくれるのは、いつも彼からだった。
最初はただのクラスメイト。
でも、文化祭の準備でふたりきりになることが多くて、
いつの間にか、私はその笑顔を目で追うようになっていた。
「これ、ちょっと手伝って」
「お前って不器用だよな」
「でも、そこが…まあ、いいとこかもな」
そんな何気ない一言に、心が震えるなんて思ってなかった。
その日から私は、帰り道を“待つ”ようになった。
「一緒に帰ろ」って言われたくて、教室に残る理由を作ったりして。
でも――
冬休み前の終業式の日。
彼が誰かと楽しそうに話してるのを見てしまった。
「付き合ってるの?」って、思わず口から出てしまった。
彼は少し黙って、
「…まあ、そんな感じかな」って笑った。
その瞬間、目の前の景色が歪んだ。
私が“好き”だったのは、
もう誰かの“彼氏”だった。
それからの帰り道は、いつもひとりだった。
でも彼は変わらず声をかけてきた。
「大丈夫か?」とか、「なんか元気ないな」とか。
優しくて、だからこそつらくて――
ある日の放課後。
私が教室にひとりで残ってたら、
彼がふいにやってきた。
「なあ…最近、避けてる?」
「お前と歩く帰り道、俺、けっこう好きだったんだけど」
胸が痛かった。泣きたくなった。
でも、私は笑って答えた。
「私は、好きにならなきゃよかったって思ってる」
「でも、ありがとう。帰り道、一緒にいてくれて」
その日から、私は彼に会釈だけするようになった。
もう、恋人になれないなら、
せめて、好きだった日々を綺麗なままにしたかったから。