「おめでとうございます、妊娠6週目ですね」
産婦人科の小さな個室で、先生の言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
当時私は23歳、社会人2年目。
彼とは大学のサークルで知り合い、交際歴はちょうど1年半。
仲の良いカップルだったと思うし、喧嘩も少なかったけど、「結婚」なんて、まだ先のことだと思っていた。
家に帰る電車の中、LINEを打つ指が震えていた。
「今日、病院行ってきた。妊娠してた」
彼からの返信は、少し間をおいて、こうだった。
「そっか。会って話そう。ちゃんと向き合いたい」
その夜、駅前のファミレスで会った彼は、想像以上に落ち着いていた。
でも、テーブルの下で手が震えているのが、私にはちゃんと分かった。
「責任取るよ」なんて言葉を、私は期待していたわけじゃない。
ただ、「どうしよう…」って不安な気持ちを、誰かと分かち合いたかった。
「正直、驚いてる。でも…なんか、うれしいって思っちゃった自分もいて」
「俺、◯◯(私)のこと、本気で好きだし。結婚、しよう」
そう言ってくれたとき、涙が止まらなかった。
現実的には不安だらけだったけど、彼のその一言に、心の奥がふっと軽くなった気がした。
両親への報告も、もちろん簡単じゃなかった。
母は泣いたし、父は無言だった。
でも、時間をかけて話して、私たちの気持ちを伝えると、少しずつ理解してくれるようになった。
式は挙げずに、写真だけのフォトウェディング。
でもそれでも、ウェディングドレス姿の私を見た彼が「すごくきれいだよ」って照れながら言ってくれたのが、今でも心に残っている。
妊娠中の身体は思っていたよりもずっとしんどくて、つわりで眠れない日もあった。
そんなとき、彼は仕事から帰ってくると毎晩スープを作ってくれて、背中をさすってくれた。
「俺、料理できないから…味は保証しないけど」
「ううん、めっちゃおいしい」
本当はちょっと薄味すぎたけど、そんなことはどうでもよかった。
“ふたりで乗り越えてる”っていう感覚が、何よりうれしかった。
そして迎えた出産の日。
初めて彼がわが子を抱いたとき、彼は少し涙ぐんでいた。
「この子が、俺たちを夫婦にしてくれたんだね」
できちゃった婚って言葉に、少しネガティブなイメージを持たれることもある。
確かに、準備万端の結婚じゃなかったし、周りには驚かれたし、焦りや迷いもたくさんあった。
でも、私は後悔していない。
あのとき、おなかの中に命が宿ってくれたことで、私たちは本当の意味で“家族”になれた。
恋愛は、計画通りには進まない。
だけど、予想外の出来事が、人生で一番大事なきっかけをくれることだってある。
今、息子と3人で過ごす毎日は、大変だけど、笑顔が絶えない。
ふとした瞬間に思い出す。
あの駅前のファミレスで、震える声で「結婚しよう」と言ってくれた彼の顔を。
「ありがとう、あのとき決断してくれて」
私は心の中で、今でも何度もそうつぶやいている。