彼は、親友の彼氏だった。
最初は、ほんとに何もなかった。
紹介されて、「へぇ、優しそうな人だな」って思っただけ。
でも、その“優しそう”が、想像以上だった。
いつも親友を気遣って、
細かいところに気づいてくれて、
どんな話にもちゃんと耳を傾けてくれる人。
3人で会うたび、
私は「この人と付き合えて、親友は幸せだな」と思ってた。
……なのに。
親友とケンカした日、
彼が相談に乗ってほしいと連絡をくれた。
カフェで話して、
「彼女のこと、ほんとは大切にしたい」って、真っ直ぐ言った彼を見て、
私は、心のどこかが揺れてしまった。
“ああ、この人に優しくされたら、誰だって好きになってしまう”
そう思った自分を、
そのあとずっと、責めた。
でも──それから何度か、
偶然を装ったやりとりが増えていって、
誕生日に送られてきた「おめでとう」のメッセージには、
親友の名前がなかった。
ある日、彼から言われた。
「君のこと、ちゃんと見てたよ」
「こんなに好きになるって思ってなかった」
「……でも、ダメだよね」
「うん……ダメだよ……」
抱きしめあうことも、
キスをすることもなかった。
でも、あの夜の、
ふたりの沈黙が、何よりも熱かった。
結局彼は、親友と別れた。
でも私は、彼とは付き合わなかった。
奪ったと思いたくなかったし、
“彼の中で私は代わりだったかもしれない”という恐怖が、
どうしても拭えなかった。
恋は始まらなかったけれど──
あの時、
“好きになってはいけない人”を、
確かに好きだった。
あの夜、心の奥で火が灯って、
今でもたまに、胸の奥で揺れている。