あれはたしか、中学2年の終わりごろだったと思う。
自分でも、なぜあんなに勇気を出せたのか、いまだに不思議だ。
でも、それくらい彼女のことが好きだったんだと思う。
名前は、絵里香。
クラスは違ったけど、部活が一緒で、よく図書室の帰りに一緒になった。
明るくて、どこか大人っぽくて、でも笑うと急に子どもみたいな表情になる。
そのギャップに、たぶん最初からやられてた。
ある日、たまたま掃除当番が一緒になって、二人きりになったとき──
「今しかない」と思って、言ったんだ。
「絵里香のこと、ずっと前から好きでした。よかったら…付き合ってください」
返事は、はっきりとした「ごめんね」だった。
理由は、「いきなりすぎて、どう答えていいかわからなかった」って。
頭では分かってても、やっぱり胸の奥がズキッとした。
それから何日かは、彼女の前では平気なふりして、家に帰ると一人で勝手に落ち込んで。
でも不思議と、嫌いにはなれなかった。
むしろ、一回気持ちを伝えたことで、少しだけ素直になれた気がした。
それからは、前より少し自然に話せるようになって、彼女のちょっとした癖や、好きなアニメの話なんかも聞くようになった。
一緒に笑ったり、ちょっとだけいじられたりして、距離は少しずつ縮まっていったと思う。
3年になって、クラスが同じになった。
受験に向けて勉強の空気がピリピリする中で、帰り道に二人きりになる時間がぽつぽつとできてきて。
夏の終わり、絵里香と並んで歩く帰り道。
駅の近くの橋の上で、ふと立ち止まって彼女が言った。
「前に告白された時さ、本当はちょっと嬉しかったんだよ」
ドキッとした。
夕陽がまぶしくて、顔を見られなかった。
「……もう一回、言ってもいい?」って聞いたら、彼女は笑ってうなずいた。
「うん。今なら、ちゃんと答えられる」
それが、僕たちのスタートだった。
初デートは、映画館。
小さな地元のシネコンで、青春モノの邦画を観た。
隣に彼女がいるだけで、スクリーンの中の恋愛が他人事じゃなく思えた。
ポップコーンの塩気と、手が触れそうで触れない緊張感。
それが、途中で彼女の小さな手がそっと僕の手に重なって──
今でも、あの瞬間の心臓の音が聞こえる気がする。
帰り道、商店街のベンチに座って、彼女がぽつりと言った。
「…一回フラれたのに、もう一度来てくれて、ありがとう」
「ううん。俺こそ、もう一回言ってよかった」
キスなんて、もちろんまだ先のことだったけど。
その日、彼女が「また来週も会おうね」って言ってくれたのが、僕には何より嬉しかった。
思い返せば、不器用で、青くて、恥ずかしいくらいの恋だった。
でもたぶん、自分にとっては一番大切な「初恋」だったんだと思う。
大人になった今でも、あの橋の上の風や、映画館の座席の感触まで、ちゃんと覚えてる。
だからたぶん、恋って、忘れようとしても消えないんだ。
ちゃんと「好き」って伝えた記憶が、心の中に、ずっと残っている。