夏祭りの帰り道、はぐれたふりをして手を繋いだ──中3の私の精一杯の背伸び

夏祭りって、なんであんなに特別なんだろう。
屋台の明かり、遠くから聞こえるお囃子、浴衣の音。全部が非日常で、全部がちょっとだけ恋に背中を押してくれる気がする。

その日、私は中学3年。好きだったのは同じクラスの大翔(ひろと)くん。
運動部で、いつも明るくて、誰とでも仲良くできるタイプ。
私はその正反対で、ちょっと大人しめな方。だから「話せるだけで嬉しい」と思ってた。

そんな私が、大翔くんを夏祭りに誘った。
きっかけは、体育の授業中に「今年の祭り、誰と行く?」って聞かれたこと。

「え、別に決めてない」
「じゃあ…一緒に行く?」
自分でもびっくりするくらい自然に言えてたけど、内心は心臓が爆発するかと思った。

そして迎えた当日。
私は母に借りた浴衣を着て、鏡の前で何度も髪を直した。
「誰かと行くの?」って母に聞かれて、照れながら「友達」とだけ答えた。

駅で待ち合わせたとき、大翔くんはちょっと驚いた顔で笑った。
「似合ってるじゃん。ってか、誰か分かんなかった」
その一言で一日が報われた気がした。

屋台を回って、かき氷を半分こして、金魚すくいで笑いあって。
楽しかった。でも、ずっと「手を繋ぎたい」って気持ちが心の中で渦巻いてた。

帰り道、私は決めていたことを実行に移した。

「…あ、ごめん。ちょっと靴脱げたかも」
わざと少し後ろに下がる。
彼が振り向いて、「大丈夫?」って歩み寄る。

その一瞬を逃さず、私は小さな声で言った。

「…なんか暗いし、ちょっとだけ…手、繋いでてくれる?」

言ってから後悔した。急すぎたかなって。
でも彼は何も言わずに、スッと手を差し出してきた。
大きくて、ちょっとだけ汗ばんだその手。
私の手よりもあたたかくて、なんかそれだけで泣きそうになった。

「ほら、転ばないように」

たぶん彼にとっては何気ない一言。
でも私にとっては、人生でいちばん緊張して、いちばん嬉しかった言葉だった。

途中のコンビニで休憩して、ラムネを2本買って、歩道の縁石に座って飲んだ。
その間も手は繋いだまま。
誰にも見られない場所で、静かにふたりだけの時間が流れてた。

「…こんな夏祭り、はじめてかも」
「私も」
「なんかさ、受験とかで忙しくなるけど、またこういうの行きたいな」
「…うん。大翔くんとなら、いつでも行きたい」

自分でも信じられないくらい素直に言えた。
彼は照れくさそうに笑って、「ありがと」って言ったあと、そっと手に力を込めた。

そのまま家まで送ってくれた帰り道、玄関の前で見上げた夜空は、花火よりも綺麗に見えた。
恋って、たった一言や一瞬で、一生忘れられない思い出になる。
そう思った、私の中3の夏。


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