その日、仕事が少し遅くなって、終電にぎりぎり間に合うかどうかのタイミングで駅に駆け込んだ。
スーツのジャケットの内ポケットから定期券を取り出す余裕もなく、
とにかく乗り込んだ車両のドアが閉まると、ほっと息をついた。
車内は思ったより空いていて、隅のほうの席に座ってスマホを見ていたら、
隣に座った誰かの声が聞こえた。
「…ねえ、もしかして、〇〇くん?」
顔を向けると、そこには見覚えのある目元と、変わらない笑顔があった。
「えっ……あ、え、奈々?」
「やっぱり!」
まさかの、中学の同級生だった。
同じクラスで、学級委員なんかも一緒にやってた、あの奈々。
卒業以来、一度も会ってなかったのに、
名前を呼ばれてすぐ分かるくらい、雰囲気はあの頃のままだった。
「こんな偶然あるんだね」
「ほんと、奇跡みたい」
自然と会話がはずんだ。
大学、就職、引っ越し、今の生活――
十年以上の空白が、驚くくらいすんなり埋まっていく感覚だった。
「〇〇くん、昔は真面目すぎて、女子からはちょっと怖がられてたよ」
「…それを今ここで言う?」
「ごめんごめん。でも、私は結構好きだったよ」
その“好き”は、たぶん“好感が持てる”って意味だったんだろうけど、
なぜか少し胸が跳ねた。
終電が郊外の駅に近づくにつれ、乗客が減って、車内は静かになっていった。
窓の外の風景が、どこか懐かしく感じられるのは、きっと彼女のせいだ。
「このまま終点まで行きたいなぁ」って、奈々がぽつりとこぼした。
「じゃあ、次降りたら…ちょっとだけ歩く? 眠れなそうだし」
「うん」
駅前のコンビニでホットレモンを買って、
静かな道を並んで歩いた。
「私さ、中学のとき、ちょっと〇〇くんのこと気になってたんだよ」
「えっ、それ言う? 今さら」
「言いたくなったから。今日会えて、なんかふと思い出しちゃって」
心が、少しだけ、にじむようにあたたかくなった。
「じゃあ、俺も言うけど…実は、俺も奈々のこと、ちょっと気になってた」
言ってから、「なんで今…」って思ったけど、
彼女は驚いたあと、少し照れたように笑った。
「なんか、面白いね」
「うん。タイミングって、不思議だな」
公園のベンチに座って、
コンビニのカップを手に持ったまま、
静かな夜を一緒に過ごした。
「ねぇ、もし今日会ってなかったら、たぶんこの先も一生会わなかったかもしれないね」
「たぶんね」
少しだけ間を置いて、俺は言った。
「でも、今日会えたからには、また会ってもいいよね」
彼女はゆっくり頷いて、カップを両手で包んだまま、
「うん、また会いたい」って、小さく返してくれた。
それからのことは、急には進まなかった。
でも、連絡を取り合って、週末に会って、
ゆっくりと距離を縮めていった。
初めて手をつないだのは、再会から3回目のデートの帰り道だった。
「寒いね」って言いながら、
彼女がそっと自分の手を俺のコートのポケットに入れてきて、
そのまま指を絡めた。
心臓が跳ねる音が、伝わるんじゃないかってくらいだった。
そのときふと思った。
「“もしも”が重なってくれた奇跡に、ちゃんと感謝したいな」って。
出会いって、タイミングひとつで通り過ぎてしまうものだけど、
あの日の終電は、俺の人生の分岐点だったのかもしれない。
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#夜の街で歩いた距離
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