高校2年の夏、私はまだ「恋ってなんだろう」って思いながら過ごしていた。
部活に打ち込んで、テストに追われて、友達と他愛ないことで笑い転げて。そんな日々の中で、急に心の中に現れたのが──同じクラスの山本くんだった。
彼は、目立つタイプではなかったけれど、いつも穏やかで、誰に対しても優しかった。
席替えで隣になったのが最初のきっかけだったと思う。ふいに目が合って、「あ、どうも」って少し照れたように笑うその顔が、なんだかずっと印象に残った。
そして迎えた文化祭準備期間。
私たちのクラスは「お化け屋敷」をやることになって、偶然にも彼と装飾担当で同じ班に。
放課後、ダンボールや暗幕と格闘する日々の中で、少しずつ会話が増えていった。
「ねえ、それ逆さじゃない?」
「え、マジ?…あーほんとだ、ごめんごめん(笑)」
そんな他愛もないやりとりが、なんだか楽しかった。
ふと手が触れたとき、彼がちょっとびっくりしたように「あ、ごめん」って言ったあの瞬間だけ、なぜか心臓の音が自分だけ大きく聞こえた気がした。
文化祭当日。
お化け役を終えて控室で休んでいるとき、彼がふいに話しかけてきた。
「なんか、今日すごい頑張ってたね。…ちょっとかっこよかった」
「なにそれ、急に(笑)」って言いながら、顔が熱くなるのを感じた。
そして、そのまま何事もなかったように過ぎていった文化祭から、1ヶ月後。
私の所属している軽音楽部の合宿があり、そこにサポートメンバーとして山本くんが参加することになった。
正直、合宿って言っても地味な山間の研修施設で、昼間はほぼスタジオ練習、夜は班ごとの課題発表。
だけど、夜の自由時間に、彼がふいに話しかけてきた。
「文化祭のとき、ずっと言いたかったことがあるんだけど…」
「え、なに?」
彼は少し間を置いて、息を吸い込んで言った。
「俺、たぶん、〇〇(私の名前)のことが好きなんだと思う」
私は、何も言えなかった。驚きとか、嬉しさとか、いろんな気持ちが一気に胸の奥で渦巻いて。
その場では「…ちょっと、考えさせて」としか言えなかったけど、夜が明けてもその言葉はずっと頭の中に残っていた。
帰りのバスの中、隣に座った彼が、何も言わずに窓の外を見ていた。
その横顔が少し寂しそうで、でもやっぱり、好きだなって思ってしまって。
家に帰って、荷物を片付けながら、私はLINEを開いた。
「…やっぱり、私も好きだと思う」
送ったメッセージに、すぐに「めっちゃ嬉しい」って返ってきた。
そして次の週末、ふたりで初めてのデート。ショッピングモールのフードコートでお互い好きなクレープを選んで、ベンチに並んで食べた。
「俺、こういうの初めてなんだけど」
「私も。…でも、ちゃんと楽しいよ」
クレープの甘さよりも、手のひらに残ったぬくもりの方が、ずっと印象に残ってる。
あれから時間が経って、今ではその恋も、思い出の中にある。
でも文化祭のにぎやかな音や、合宿の夜の静けさ、彼のまっすぐな目は、今でもふと思い出す。
あの時、ちゃんと「好き」を伝えてくれてありがとう。
私の初恋は、文化祭と合宿のあの夏に、ちゃんと息を吹き込まれていたんだと思う。