「久しぶり」って笑った君は、やっぱり少しだけ、僕の心をかき乱す。

社会人3年目の春、偶然のようで、どこか必然めいた再会だった。

その日、仕事の打ち合わせで立ち寄ったカフェ。ノートパソコンを開いてコーヒーをすすっていた僕に、「…〇〇くん?」と声をかけてきたのは、高校の頃付き合っていた元カノだった。

Hとは、2年近く付き合っていた。初めての彼女で、初めての失恋。卒業と同時に、自然と別れを選んだ関係だったけど、あのときの心のざわめきは今でも忘れていない。

久しぶりに見るHは、少し大人っぽくなっていて、でも笑ったときの顔は昔と変わらなかった。

「仕事?こっちはたまたま近くに住んでて。よく来るの、このカフェ」

何でもないような会話なのに、どこか懐かしくて、甘くて、くすぐったい気持ちになる。つい話が弾んで、そのまま一緒にランチまで付き合ってもらった。

お互い、今は別の人生を歩いている。彼女には彼氏がいて、僕にも最近別れたばかりの恋人がいた。だけどその日、気づけば夕方まで話し込んでしまった。

「…変わってないね、あの頃と」
彼女がぽつりとそう言って笑ったとき、不意に時間が巻き戻ったような感覚になった。

「また…会ったりしたら、ダメかな」

僕がそう聞くと、彼女は一瞬だけ目を伏せて、それからゆっくりとうなずいた。

その後、何度か彼女とは会った。仕事の合間にランチをしたり、ふたりで夜の街を少しだけ歩いたり。手をつなぐことも、キスもしていない。だけど、あの頃の記憶が少しずつ、今の感情に溶け込んでいくのがわかる。

「これ以上は、危ないよね」
そう言った彼女の横顔が、やけに綺麗だった。

僕たちは、もう戻れないと分かっている。過去は過去で、ちゃんと終わった恋だったはず。それでも、再会がくれた時間は、どこか心地よくて、今でも思い出すと少し胸が熱くなる。

恋が終わっても、感情は簡単には消えない。
大人になって再会することで、思い出にそっと触れるような、そんな瞬間があってもいいのかもしれない――たとえ、それが誰にも話せない時間だったとしても。