俺には、幼稚園の頃からずっと一緒にいる幼馴染がいる。
名前は美央。家が2軒隣で、登校班も一緒。親同士も仲が良くて、まるで兄妹みたいに育ってきた。
小学校では同じクラスが多くて、習いごとまで一緒だったし、
中学でも部活の話をしたり、テスト前に家で勉強会をしたり。
高校が分かれてからは少し会う頻度が減ったけど、連絡はずっと取り合ってた。
たまにLINEで他愛もないやり取りをしたり、年に何回か地元の駅前で会ってお茶したり。
正直、「このままずっとこんな関係なのかな」と思ってた。
でも、高3の春休み。
進路が決まって、ちょっと時間ができたタイミングで、美央から「久しぶりに遊ばない?」と誘われた。
「せっかくだし、ちょっと遠出してみる?」
そう言われて、2人で電車に乗ってショッピングモールに行った。
最初はいつも通りだった。
カフェで軽く食べて、雑貨屋を見て、ゲームセンターでくだらない勝負をして。
でも、帰り際に映画を観ようってなったとき、
チケットを受け取って席に向かう途中、ふいに美央が言った。
「…なんか、今日ちょっとだけ緊張してる」
「え、なんで?」って聞いたら、
「わかんない。〇〇と2人で出かけるのって、昔から慣れてるはずなのに…今日だけは、ちょっと違う気がして」
その言葉を聞いた瞬間、胸がズキッとした。
それはたぶん、俺自身も同じことを感じてたからだった。
映画が終わって、駅まで歩く途中、ちょっと沈黙が続いて、
その空気に耐えられなくなった俺が、立ち止まって言った。
「俺さ、ずっと“美央は幼馴染”って思い込もうとしてた」
美央は少し驚いた顔をしたあと、黙ってうつむいた。
「でも今日、ちゃんと分かった。美央のこと、好きだって思ってる。…今はもう、“ただの幼馴染”じゃない」
言い終わったあと、変な汗が出てきて、心臓もバクバクで。
返事がないまま時間だけが流れてる気がして、ちょっと後悔しかけたとき──
「…やっと言ってくれた」って、美央が小さな声で笑った。
「私も、今日が“いつも通り”じゃないの、すぐに分かった。…〇〇のこと、好きだよ」
そのまま駅まで歩く道で、彼女の手をそっと握った。
ぎこちなかったけど、離れたくなかった。
ふと後ろから抱きしめたくなったけど、人通りもあるし、
まだそこまでの関係じゃない気がして、我慢した。
でも、手のひらから伝わるぬくもりと、彼女の照れた横顔を見て、
「これからちゃんと恋人として、隣にいたい」と思った。
帰りの電車の中、美央は俺の肩にもたれて、小さな声で言った。
「次のデート、ちょっと楽しみにしてるんだけど…いいよね?」
もちろんだよ。
幼馴染だったけど、今は“彼女”だ。
この関係を大事にしていこうって、改めて思った帰り道だった。