彼と初めて話したのは、駅の階段でした。
ちょうど帰宅ラッシュの時間で、駅は混んでいたのに、
私の前で男の人が小さな女の子の手を引いて、落としたぬいぐるみを拾ってあげていたんです。
その姿がなんとなく気になって見ていたら、その人が振り返って、
「危ないですよ」って声をかけてきました。
それが、彼との最初の会話でした。
彼は同じ大学の別学部の人で、なんと家もひと駅違いという近さ。
それから、駅で会うたびに挨拶するようになって、連絡先を交換するまで時間はかかりませんでした。
最初の頃は他愛もない会話ばかりだったのに、
夜のLINEのやりとりがいつの間にか日課になって、
「明日早いけど、あとちょっとだけ話したい」とか言われて、ドキドキしたのを覚えています。
彼はいつも少し照れたように笑う人でした。
でも、人混みでは私の腕を自然に引いてくれたり、重い荷物を何も言わずに持ってくれたりして、
優しさが行動ににじみ出ているような人でした。
ある日、急な雨に降られて、駅で立ち往生していた私に、
びしょ濡れになりながら傘を差し出してくれて、
「風邪引くと困るでしょ」って、笑って言われたとき。
その言葉と仕草が、たまらなく嬉しくて、心の奥がじんわり温かくなったのを覚えています。
少しずつ、彼に惹かれていく自分に気づきながらも、
この関係が壊れるのが怖くて、ずっと友達のふりをしていました。
でも、彼が地元に帰ることが決まって、急に別れが近づいてきて。
最後の日、駅の改札で「じゃあね」って手を振った彼が、
振り返らずに走っていった背中を、私は今でも忘れられません。
好きだって、ちゃんと伝えたかったです。
でも、あのまっすぐな背中を見ていたら、
言葉にできなかった気持ちも、少しだけ報われたような気がしました。
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