「ねえ、私たちって……付き合ってるんだよね?」
その問いを口にしたのは、付き合い始めて三ヶ月が経ったある夜だった。 コンビニの帰り道、ふたりで買ったアイスを食べながら歩いていた時。 唐突だったかもしれないけれど、ずっと胸の中にひっかかっていた言葉だった。
彼は、一瞬だけ足を止めて、それからまた歩き出した。
「うん、そうだよ」
その答えを聞いて、私はほっとしたはずだった。でも、なぜかそのあと、心が静かに冷めていく音がした。
出会ったのは、大学のサークルだった。 私は新入生、彼は二つ上の先輩。 最初はグループで出かけるくらいの距離感だった。 でも、ある日ふたりきりで映画を観に行って、その帰りに彼が「付き合ってみる?」と言った。
付き合って“みる”?
そのときは、嬉しさが勝って、細かいことなんて気にならなかった。 私はうなずいた。
でも、いざ付き合ってみると、いろんなことが“なんとなく”だった。
「好き」とは言われなかった。 「可愛い」もあまりなかった。 デートも、彼の都合が合う日だけ。 連絡はほぼ私から。
それでも、一緒にいる時間は心地よかった。 彼が私を見て笑うと、全部報われた気がした。 でも、それって……“好きだから”じゃなかったのかもしれない。
決定的だったのは、ある飲み会のあと。 酔った彼が、ぽつりとこぼした言葉。
「恋人っていうのがいると、いろいろ楽になるんだよね。周りもあんま余計なこと言わなくなるし」
私は、その場では笑ってごまかした。 でも、頭の中では、ずっとその言葉がぐるぐる回ってた。
彼にとって私は、“恋人がいるというステータス”のひとつだったのかもしれない。
それから、私は彼と一緒にいるときでさえ、心がどこか遠くなっていくのを感じた。
冒頭の問いを投げかけたのは、その確かめがしたかったからだった。
「うん、そうだよ」
その言葉が返ってきたのに、どうしてだろう。 心のどこかが、そっと閉じていった。
私はきっと、恋人になりたかったんじゃない。 “ちゃんと愛される存在”になりたかったんだ。
付き合ってるかどうかじゃなくて、 そこに“気持ち”があったかどうか。
それを聞いても、たぶん彼は困るだけだと思って、言葉にできなかった。
帰り道、私の手はずっとアイスの棒を握りしめたまま、溶けかけていた。
彼の隣にいながら、心は少しずつ彼から遠ざかっていた。
そして、その夜の月がやけに冷たく感じたのを、今でも覚えている。