友達と飲んで帰ってきたある晩、スマホに見慣れない番号からの着信履歴が残っていた。留守電なんて今どき珍しいなと思って再生した瞬間、その声で全身が固まった。
「……沙月? 俺だけど、佐伯。急にごめん。ちょっと、声聞きたくなって……」
名前を聞いたとたん、心臓が跳ねた。まさか、あの佐伯から。もう二度と関わることはないと思っていたのに。
佐伯は大学一年のときに付き合っていた元カレだった。出会ってすぐに惹かれて、でもぶつかることも多くて、最後はお互い疲れてしまったように別れた。
別れてから一年。LINEも電話もすべてブロックして、写真も消した。……つもりだった。でも、たった一度の声で、あの頃の記憶が一気に溢れてきた。
ベッドに座り込んだまま、しばらく動けなかった。声が頭の中で何度もリピートされた。あのときと同じ、少しかすれた、優しい声だった。
翌朝、私はずっと迷っていたけど、結局、彼の番号にかけ直してしまった。
「……出てくれると思わなかった」
佐伯の声は、少しだけ緊張していた。私もそうだった。「急にどうしたの?」って聞くのがやっとだった。
「なんか、夢に出てきてさ。沙月が笑ってて……起きたら、無性に声が聞きたくなった」
そんなの、ずるいよ。心の中でそう思いながらも、私はなぜか怒れなかった。彼の声を聞いているだけで、胸がざわついた。
それから何度かやりとりをするようになった。用事があるわけでもないのに、LINEが続いて、電話もたまにするようになった。
「覚えてる? 付き合って初めて行った映画館、君がポップコーン全部こぼしたやつ」
「あれ、佐伯が変なとこで驚かせたせいでしょ!」
そんな会話が、自然と交わされるようになっていた。私はもう平気だと思っていた。でも、本当はずっと、忘れたふりをしていただけだった。
そしてある夜、彼が「久しぶりに会えない?」と言ってきた。断れなかった。自分でも会いたかった。
再会の日。駅前で待っていた彼は、少し髪が伸びていて、でも笑った顔は変わっていなかった。
「変わってないな」
「そっちこそ」
他愛のない会話の中で、私は何度も心を揺さぶられていた。歩きながら、彼がぽつりと呟いた。
「別れたあと、ずっと後悔してた」
その言葉を聞いて、立ち止まった。彼も振り返った。夜風が吹いて、髪が揺れていた。
「ほんとは、何度も連絡しようとしたけど……自分の弱さが邪魔してできなかった」
「私も……ずっと、忘れられなかった」
そう言った瞬間、涙が出そうになった。でも、泣かなかった。泣いたら、全部が壊れてしまいそうで。
「また、やり直せると思う?」
佐伯の問いかけに、私は少し考えてから頷いた。
「うん。たぶん、今なら、ちゃんと話せる気がする」
そのあと、手を繋いで歩いた道は、なんでもない道だったはずなのに、すごくあたたかく感じた。
忘れたふりをしていた“好き”が、たった一言で戻ってきた夜だった。
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