あの日の空気を思い出すたびに

ふと、実家の押し入れを整理していたときに見つけた一枚の写真。あの夏、私と優斗が二人で撮った、あの時のままの笑顔がそこにあった。今でもあの空気を思い出すたび、胸がぎゅっと締め付けられるような気持ちになる。

当時、私は中学二年生で、クラス替えして初めて同じクラスになったのが優斗だった。スポーツが得意で、あまり喋るタイプじゃないけど、誰にでも優しい空気を纏っていた。私は一目見た瞬間から、心のどこかで彼を目で追っていた。

最初に話しかけたのは、グループ活動の準備中だったと思う。「これ、もうちょっと右じゃない?」って言ったら、「あ、ごめん、助かる」って笑った顔。今でも忘れられない、あの笑顔。

それから、少しずつ話すようになって、帰り道が一緒になることも増えていった。駅までの10分弱、部活の話とか、好きな漫画の話とか、ほんのたわいない会話。でも、それがたまらなく嬉しかった。

七月の終わり、夏祭りの日。クラスの何人かで行く予定だったのに、みんな急な予定変更で来られなくなって、結局、私と優斗だけになった。「行くのやめる?」って聞いたら、「せっかくだし行こうよ」って、笑ってくれた。

浴衣を着て行った私を見て、「似合ってるね」ってぽつんと言ったあの瞬間、鼓動が跳ねた。そのあとも、金魚すくいや射的で盛り上がったけど、ずっと頭の中がふわふわしてて、自分が何を話してるのか半分わからなかった。

帰り道、駅までの坂道を歩きながら、急に沈黙が訪れた。なんだか気まずくなって、足元ばかり見てたら、優斗が「こっちおいで」って言って、手を伸ばしてきた。

一瞬、何が起きたのか分からなかった。でも、気づいたら彼の手を握ってた。細くて、温かくて、汗ばんでて。でも、なんだか安心した。

「来年も、一緒に行けたらいいな」って優斗がぽつりと呟いたとき、私は「うん」って頷いたけど、本当はそれ以上の言葉を伝えたかった。

でも、夏休み明けに彼は転校することになった。お父さんの仕事の都合で、急に決まったことだったらしい。最後の日、ちゃんと話せなかった私に、彼は机の中に手紙を残してくれてた。

『あの時、手を繋げてよかった。また、いつかどこかで会えたらいいな。』

私は返事を書けなかった。今ならもっと上手に伝えられたかもしれない。でも、あの時の私には、それが精一杯だった。

あれから何年も経って、大人になった今でも、夏の空気と手の温かさが、私の中にずっと残っている。

あの恋は、きっと「初恋」って呼ぶんだと思う。片思いだったかもしれない。でも、私の中ではちゃんと「好き」だった。

もう一度だけ会えたら、今度こそ自分の気持ちをちゃんと伝えたい。

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