先輩の彼女になるなんて、思ってなかった

あの春、私は高校に入学したばかりで、すべてが新しくて、ちょっと怖かった。中学時代に比べて校舎も広くて、生徒も多くて、正直、人の波にのまれそうだった。

部活は、中学でも続けていたテニス部に入ろうと決めていた。でも、新入生歓迎会で話しかけてきたのは、同じクラスの子じゃなくて、テニス部の三年生の先輩だった。

「初心者?それとも経験者?」

声をかけてくれたのは、背が高くて日焼けした男の先輩。ちょっとぶっきらぼうだけど、目がまっすぐで、なんだか安心感があった。

「中学のときやってました」

そう答えたら、「じゃあ、すぐ慣れるよ」って、軽く笑った。そのときは、それがただの勧誘だと思ってた。

入部してしばらくは、先輩とは特に関わることもなくて。練習中は真面目で、みんなに厳しくて、でもときどき見せる笑顔がかっこよくて。気づけば私は、部活が終わったあとも先輩の姿を探していた。

夏が近づく頃、先輩の引退試合があった。私は応援席から見ていたけれど、ずっと緊張してて、心臓がバクバクしてた。試合は惜しくも負けてしまって、部室での最後の挨拶のとき、先輩が泣いていたのを見て、胸がぎゅっと締めつけられた。

その日の帰り、偶然、校門の前で先輩と二人きりになった。気まずい空気の中、私が「お疲れさまでした」って声をかけたら、「……ありがとうな」って、先輩が笑った。

「最後、ちゃんと見てた?」

「はい。先輩、すごくかっこよかったです」

自分でも驚くくらい、素直に言葉が出た。そしたら先輩が少し驚いた顔をして、それから急に照れたみたいに目をそらして、「おまえ、面白いな」って言った。

そのあと、何気ない流れでLINEを交換して。最初は部活の話ばかりだったけど、少しずつ、日常のことや趣味の話もするようになっていった。

引退したあとも、先輩はちょくちょく学校に顔を出してくれた。私が練習で落ち込んでるときは、「まぁ、おまえならすぐ戻るだろ」って言ってくれて、それだけで元気になれた。

夏休みの終わり、突然先輩から「映画、行かない?」って誘われた。びっくりしたけど、即答で「行きたいです」って返した。

映画の内容はあんまり覚えてない。ただ、隣に座ってた先輩の腕がちょっと触れそうで、それだけで頭が真っ白になった。

帰り道、駅までの坂道で、先輩がぽつりと言った。

「おまえ、俺のこと好きなんじゃねーの?」

心臓が止まりそうだった。何も言えなかった私に、先輩はちょっとだけ笑って、「俺はけっこう前から好きだけどな」って。

その言葉が、あまりにも不意打ちで、でもすごくあたたかくて、私は涙が出そうだった。

うなずいたら、先輩が私の頭をそっと撫でてくれた。駅の明かりが、まるでスポットライトみたいに私たちを照らしていた。

あのときの気持ちは、今でもはっきり覚えている。

「先輩の彼女になるなんて、思ってなかった」

でも、私の青春は、あの瞬間から確かに動き出した。

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