大学4年の冬、俺は彼女と別れた。
「あなたのこと、嫌いになったわけじゃない。でも、将来のこと考えると、一緒にはいられない気がする」
そう言って泣いた彼女の顔を、今でも時々、夢で見ることがある。
就活に失敗し、内定も決まらないまま迎えた年末。
一方、彼女は志望していた企業から早々に内定をもらっていて、週末はインターンや研修で忙しくしていた。
焦りと自信のなさが募って、次第に彼女に素直になれなくなっていった。
「いいな、お前は」なんて、つい口に出してしまったとき、
彼女が傷ついた表情をしたのを見て、俺は取り返しのつかないことをしたと気づいた。
それでも、別れ際に彼女は笑った。
「きっと大丈夫だよ。ちゃんと、自分を信じて」
それから半年間、俺たちは連絡を取らなかった。
携帯の履歴も、アルバムも、全部見られないようにして、それでも心のどこかで彼女の存在を感じていた。
ある日、母から一通の封筒を手渡された。
差出人の名前は、間違いなく彼女の名前だった。
手紙には、きれいな字でこう綴られていた。
『この前、たまたまあなたのお母さんと会いました。
元気にしてるって聞いて、ほっとした。
きっと今も不安なことあると思うけど、あのとき言ったこと、本気だったよ。
あなたなら、ちゃんと前に進めるって、今でも思ってる』
封筒の中には、一枚の写真が入っていた。
それは、大学2年の夏、ふたりで海に行ったときのもの。
青空の下で彼女が笑って、俺の腕にそっと寄りかかっている。
その瞬間、涙が止まらなかった。
喉の奥がぎゅっと締まって、泣くなんて何年ぶりだろうってくらい、静かに涙がこぼれた。
誰かに認めてもらえるって、こんなにも力になるんだ。
そして、それがかつて本気で愛した人なら、なおさらだ。
俺はその写真を財布にしまって、翌日から履歴書を書き直した。
ダメでもいい。今できることを全部やろう。
そう思えたのは、あの一通の手紙があったからだった。
数ヶ月後、ようやく1社、内定をもらえた。
それを報告したくて、勇気を出して彼女にLINEを送った。
「久しぶり。突然ごめん。あの手紙、ありがとう。やっと内定もらえたよ」
既読がついて、しばらくしてから返事が来た。
『ほんとに!?おめでとう!よかった、ずっと応援してたよ』
そのとき、俺は確信した。
彼女との関係が恋人じゃなくなっても、俺の中で彼女はずっと大切な存在で、
そして彼女も、同じように思ってくれていたんだと。
それからまた少しずつ、ふたりの距離は近づいていった。
やり直すとか、付き合うとか、そんな言葉はなかったけれど、
ただ“また笑い合えること”が何よりの幸せだった。
人は、誰かのひと言で変われる。
そして、心からの言葉は、時間を超えて届くものなんだと、俺はあのとき知った。
今、手紙は部屋の引き出しの奥にしまってある。
たまに取り出して読み返すたびに、泣きそうになって、でもちゃんと前を向ける。
あの手紙と涙が、俺を救ってくれた。
そして、人生で一番感動した恋の記憶として、これからもきっと忘れない。