「好きです。年の差とか、関係ないんで」
その言葉に、私は思わず笑ってしまった。
照れ笑いでもなく、茶化すでもなく──
自分のことを、そんなふうにまっすぐ見てくれる人がこの世にいたなんて、
まるで夢みたいだったから。
私は40歳。
彼は、22歳。
一回りどころか、親子と言われてもおかしくない年齢差だった。
最初の出会いは、近所のカフェ。
いつも同じ時間、同じ席に座るその青年は、
ノートパソコンを開いて何か書いていた。
「こんにちは」
「こんにちは」
それだけのやり取りが、数週間も続いて。
気づけば彼のほうから、「その小説、前も読んでましたよね?」と声をかけてきた。
それから少しずつ会話が増えて、
週に一度の楽しみができて、
自分が少し若返ったような、そんな感覚になっていた。
でもまさか、
彼が私に恋をするなんて、思いもしなかった。
「俺、ずっと見てたんです」
「知ってました? 毎回ハンカチの色が違うんですよ」
「笑ったとき、頬にできる小さなえくぼが、すごく好きです」
そんな言葉を向けられたとき、
嬉しさよりも先に、「怖さ」が来た。
私は、彼にふさわしくない。
若くもないし、綺麗でもない。
“恋愛対象”として見られるなんて、想定すらしていなかった。
「ありがとう。でも…私はあなたの人生の足枷になる」
そう言った私に、彼は首を横に振った。
「足枷?そんなわけない。俺、あなたと話してるときのほうが、自分でいられるんです」
その一言が、
私の中に張っていた“年齢”という壁を、そっと壊してくれた。
それでも、何度も躊躇した。
手をつなぐのも、
名前を呼ぶのも、
キスを受け入れるのも。
でも彼は、決して急がなかった。
何度も「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
その“余裕”が、どれほど私を救ったか、彼はきっと知らない。
初めて「好き」と返した日、
彼は少し涙ぐんで、でも何も言わずに私を抱きしめた。
「差し引かないでくださいね。
年齢も、過去も、全部含めて、あなたを好きになったんですから」
私は、
年齢を重ねることで“守らなくちゃいけない何か”を抱えていたけれど、
彼はそれを、“一緒に持つよ”と言ってくれた。
今でもたまに不安になる。
こんなに幸せでいいのかなって。
でも彼は、私の手を握って、耳元でささやいてくれる。
「40代なんて、まだまだこれからでしょ?」
私は今、
年齢を気にせずに笑えるようになった。
年下の彼に、ちゃんと甘えられるようになった。
20歳、差し引かずに抱きしめてくれたその人に──
私はもう、何も隠さなくていい。