高校2年の春、私は父の転勤で転校することになった。
新しい学校の初日は、期待よりも不安のほうがずっと大きかった。教室のドアを開けた瞬間、見慣れない顔ばかりの中で、どう振る舞えばいいのか分からなかった。
先生に紹介されて席に着いたものの、授業中も休み時間も誰とも話せずに、ただ時間だけが過ぎていった。
そんな中、お昼休みの終わり際に、前の席の男の子が小さな声で話しかけてきた。
「……消しゴム、落ちたよ」
え? と顔を上げた私に、彼は無表情のまま消しゴムを差し出してくれた。たったそれだけ。でもその声が、不思議とあたたかかった。
「ありがとう」
それから何日か、彼とはそれ以上話すこともなかった。周りの女子が「あの人、超無口で何考えてるか分かんないよね」と話してるのを聞いて、ちょっと納得してしまった。
でもある日、授業中に使った資料が見つからなくて焦っていたら、彼が無言で自分のノートを差し出してくれた。
「写していいよ」
その瞬間、なぜか胸の奥がじんとした。
それから、少しずつ話すようになった。彼は確かに無口だけど、ゆっくり言葉を選ぶタイプで、話すたびに芯のある人だってことが分かってきた。
ある日、「ねえ、最初の日、なんで声かけてくれたの?」と聞いてみた。
彼はちょっと困った顔で、ぽつりと答えた。
「……緊張してるの、分かったから」
それだけの一言に、涙が出そうになった。
今では、席も変わってしまったけれど、彼とはよく廊下で話すようになった。
あの時、声をかけてくれなかったら、私はもっと孤独だったと思う。
あの優しさが、私の居場所をつくってくれたんだ。
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