私の日常は、スマホの画面から始まった、見えない誰かとの会話で、少しずつ色を変え始めた。共通の趣味である、古い映画について語り合うSNSのグループで、ひときわ面白いコメントをする人がいた。ハンドルネームは「ノスタルジア」。そのユーモアあふれる言葉のセンスと、深い映画への愛情に、いつの間にか惹かれていた。
ダイレクトメッセージを送ってみたのが、きっかけだった。「いつも素敵なコメント、楽しみにしています」と送ると、すぐに返信が来た。「こちらこそ、あなたの考察、すごく面白いと思ってました」。顔も名前も知らないけれど、メッセージの文字のやり取りだけで、私たちはすぐに打ち解けた。
毎日、私たちはメッセージを交換するようになった。好きな映画の話はもちろん、最近あった小さな出来事、ちょっとした悩み事まで、何でも話せるようになった。ノスタルジアのメッセージはいつも温かくて、私の気持ちをそっと包み込んでくれるようだった。彼の言葉を選ぶセンスが好きだったし、たまに送られてくる絵文字が、なんだか可愛らしくて、画面を見るたびに心がポッと温かくなった。
顔も知らないのに、彼の存在は、私の日常の中でどんどん大きくなっていった。返信が来るのが待ち遠しくて、何度もスマホをチェックしてしまう。彼のメッセージを読むと、心がドキドキして、まるで誰かに恋をしているみたいだった。
「いつか、声で話してみたいな」
ある日、私が勇気を出してそう送ると、少し間があってから、「いいね、都合の良い時、教えてよ」と返信が来た。そのメッセージを見た瞬間、心臓がドキドキして、手が少し震えた。顔も知らない彼の声を聴く。想像しただけで、胸がいっぱいになった。
初めてのボイスメッセージが届いたのは、その数日後の夜だった。「もしもし、聞こえるかな?ノスタルジアです」。イヤフォンから流れてきた彼の声は、想像していたよりもずっと優しくて、少しだけ低めの、落ち着いた声だった。その声を聞いた瞬間、画面の向こうにいる彼が、ぐっと身近に感じられた。
私たちは、メッセージだけでなく、時々、短いボイスメッセージを送り合うようになった。彼の声を聞くたびに、彼の話し方や声のトーンから、彼の優しさや、少し照れたような仕草が想像できて、ますます彼のことが知りたくなった。
「よかったら、今度ビデオ通話してみない?」
ある日、彼からそんなメッセージが届いた。ビデオ通話。画面越しに、初めて彼の顔を見る。ドキドキしないわけがない。どうしよう、どんな顔をしているんだろう。緊張と期待で、胸がいっぱいになった。
約束の日、私は何度も鏡を見て、服装を直した。始まる直前まで、心臓がバクバクしていた。そして、意を決してビデオ通話に応答した。
画面に映ったのは、少しだけ照れた笑顔の、優しい眼差しの青年だった。初めて見る彼の顔なのに、なぜか初めてじゃないような、不思議な安心感があった。彼の声も、メッセージのやり取りから想像していた通りの、温かい声だった。
画面越しに、私たちは少しぎこちなく笑い合った。でも、すぐにいつものように、映画の話や、好きな音楽の話で盛り上がった。顔を見ながら話すのは、メッセージやボイスメッセージとはまた違った、新しいドキドキがあった。彼の表情を見ていると、彼の言葉一つ一つが、さらに深く心に響いてくるように感じた。
SNSで始まった、顔も知らない君との秘密の恋。メッセージの文字から始まった優しい繋がりは、声を通して、そして画面越しに顔を見たことで、さらに特別なものへと変わっていった。まだ、直接会ったことはないけれど、彼の声を聞くと、彼の笑顔を見ると、私の心は確かに彼に惹かれている。この見えない糸で繋がった恋が、これからどんな風に発展していくのか、ドキドキしながら、私は今日もスマホの画面を開く。