その人は、旅先で見た夕陽みたいにきれいだった

大学4年の春休み、私は一人で沖縄に行った。
ゼミの論文も就活も終わっていて、でもなにか心がぽっかりと空いたまま。

ふと、スマホで「ひとり旅 おすすめ」と検索して見つけた格安ツアーに、半ば勢いで申し込んだ。

2泊3日、名護の小さなゲストハウス。
共有キッチンとリビングがあるその場所には、私と同じように一人で来ている人が何人かいた。

その中にいたのが、柊真(とうま)くんだった。

チェックインして荷物を置いて、キッチンで飲み物を取りに行ったときに、彼がいた。

「こんにちは、今日から?」
「はい、はじめまして」

その一言だけで、なぜか空気がふっと軽くなった。
彼は自然体で、声も表情もやわらかくて、不思議と“緊張しない人”だった。

「ここの夕陽、めっちゃ綺麗らしいよ。よかったら一緒に見に行かない?」

そんな風に言われて、私はなぜか「うん」とすぐに頷いていた。

ビーチまでの道を歩きながら、互いにいろんなことを話した。

彼は東京で働いていて、転職が決まったから、有休を使って来たらしい。
私と同じで、「なんとなくひとりになりたくなった」と言っていた。

「こういう時、誰かと話せるってだけでちょっと救われるね」
「ほんとに」

そのやり取りが、何気ないのに心に染みた。

そして着いたビーチは、言葉にならないほどきれいだった。

水平線の向こうに、ゆっくり沈んでいく夕陽。
柊真くんは無言でその光を見つめていた。

その横顔を見たとき――
私は、なぜか涙が出そうになった。

初めて会ったのに、前から知ってる気がした。
もしかしたら、こういう人のことを“運命”って呼ぶのかもしれない、なんて思った。

夜、ゲストハウスのリビングで少しだけお酒を飲みながら話をした。

「誰かと出会うって、何かを思い出させることなんだなって思う」
「何を、思い出しました?」

彼は少しだけ間をおいて、答えた。

「……人とちゃんと向き合うのって、いいなって」

その時の表情が、ずっと頭から離れなかった。

でも翌朝、彼はひと足先にチェックアウトしていた。
テーブルの上に、紙ナプキンに書かれたメモが置いてあった。

「昨日はありがとう。もし東京でばったり会えたら、次はちゃんと名前で呼ばせて」

メモの横に、自分の名前と電話番号が書いてあった。

けれど――私は、その紙を財布にしまったまま、連絡をすることはなかった。

あれから1年が経つ。

東京に出てきてから何度も人混みの中で、似たような後ろ姿を探してしまう自分がいる。
だけど、あの日の夕陽と同じで、彼も“ただ一度きりの景色”だったのかもしれない。

忘れようとしたわけじゃない。
忘れられなかっただけ。

そして今日もまた、財布の奥にしまった紙ナプキンを、私はそっと指でなぞっている。

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