「ねえ、ゆうな来てよ。女子2人足りないの」
金曜の午後、大学時代の友人・まいから突然LINEが来た。
急遽人が来れなくなったらしく、会社の同期たちとの飲み会(実質合コン)に来てくれという。
正直、合コンにはあまりいいイメージがなかった。
テンション高めのやり取り、無理に盛り上げる空気、上辺の会話──それより、家でのんびり映画でも観てたい気分だった。
でも、なんだかんだで断れない性格の私は、結局その夜、渋谷の居酒屋に足を運んだ。
「こっちこっちー! ゆうな紹介するね!」
案内されたテーブルには、スーツ姿の男性たちが3人。
そのうちのひとり、グレーのニットにジャケットを羽織った男性が、すっと立ち上がって頭を下げた。
「はじめまして。木村です」
その声と仕草だけで、なんとなく印象に残った。
年齢は28歳。まいの同期で、同じ営業部らしい。
他の男性たちがテンション高く場を回す中、木村さんは終始落ち着いていて、必要以上に絡んでくることもなかった。
最初はあまり話せなかったけど、料理が来たタイミングで私が「この揚げ出し豆腐、おいしい」とつぶやいたのをきっかけに、自然と会話が始まった。
「居酒屋で揚げ出し豆腐頼む女子、センスいいと思います」
「褒め言葉になってます?」
「なってます。僕も好きなんで」
その一言に、ふっと笑ってしまった。
2時間ほど経ち、場もだいぶ盛り上がった頃、ふいに彼が小声で言った。
「…ああいう盛り上がり、苦手ですよね?」
びっくりした。まさに私が思っていたことだったから。
「はい。無理に笑うの疲れちゃって」
「僕もです。…じゃあ、ちょっとだけ外、出ません?」
居酒屋の外の歩道に出ると、まだ少し肌寒い夜風が心地よかった。
「ほんとに静かですね、ここ」
「やっぱり、こういう時間のほうが落ち着く」
そこでやっと、彼がちゃんと笑った気がした。
その後、終電前に解散になったけど、帰り際に彼が自然な流れで聞いてきた。
「今度、普通にご飯行きません?ふたりで、落ち着いた店で」
断る理由はなかった。
1週間後、彼に連れて行かれたのは、恵比寿にある落ち着いたビストロ。
会話のテンポも空気も、前回の飲み会と違ってすごく穏やかだった。
「…たぶん、あの場じゃちゃんと話せないと思ってたから、今日会えて嬉しいです」
「私も。こんなに話しやすい人だって、あの日は分からなかったかも」
話は自然と趣味や休日の過ごし方に移り、彼が映画好きなこと、コーヒーにこだわりがあること、そして意外と甘党なことも知った。
「次、映画とか一緒に観に行きませんか?揚げ出し豆腐の代わりに、ポップコーンで」
思わず笑ってしまった私に、彼は優しい目で微笑んだ。
“合コン”という言葉からは想像できないほど、静かで優しい恋の始まり。
あの日、無理に参加してなかったら、たぶん出会えなかった。
今ではその時の話をするたびに、彼がちょっと恥ずかしそうにこう言う。
「ゆうなが来てくれたから、俺の週末は変わったんだよね」
私の“何気ない参加”が、誰かにとっての“運命のきっかけ”になるなんて思わなかった。
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