大学4年の春、就活まっただなかだった。
エントリーシートに追われて、面接に落ちて、電車の中でため息ばかりついていた時期だった。
その日も、都内のとある会社で最終面接を受けた帰り道。
気持ちが沈んだまま乗り込んだ帰りの電車で、向かいの席に座っていた女性が、急にスマホを落とした。
「あ、すみません…」
拾って手渡しただけだったけど、その一瞬で目が合って、軽く会釈を交わした。
それだけのはずだったんだけど、次の駅で彼女も降りて、なんとなく同じ方向に歩いていた。
「就活、ですか?」
不意に話しかけられて驚いたけど、彼女の表情がやわらかかったから、素直に「はい」と答えた。
彼女は1つ上の社会人で、たまたま休みの日に出かけた帰りだったらしい。
「スーツでうつむいてる人見ると、自分の就活思い出すんですよね」って笑っていた。
そのまま自然な流れで、駅前のカフェで少し話すことになった。
初対面なのに、不思議と気が楽で、今の自分の状況も素直に話せた。
彼女は「そっか、頑張ってるんだね」と言ってくれて、最後に連絡先を交換して別れた。
そこから、彼女とのやりとりが始まった。
就活で落ち込んだ日、「今日、面接受けたけど微妙だった…」ってLINEすると、
「お疲れさま。アイス買って自分を甘やかしな!」って返ってくる。
それがなんだか嬉しくて、励まされることが増えた。
何度か食事にも行った。
最初は就活の相談だったけど、だんだんプライベートな話もするようになって、
彼女の笑い方や、ちょっとした気遣いに惹かれている自分に気づいた。
ある日、内定の連絡が来て、その報告を真っ先に彼女に送った。
「やったじゃん!!お祝いしようね!」
即レスだった。
その週末、一緒にお祝いのごはんを食べた帰り道。
駅まで歩く途中、ふと立ち止まった僕は、思いきって言った。
「俺…ずっと、感謝してて。でも、それだけじゃなくて、たぶん好きになってた」
夜風のなか、彼女は少しびっくりした顔をしてから、
「わたしもね、初めて会ったときから、ちょっと気になってた」って、照れくさそうに笑った。
そのあと、自然に手をつないで歩いた。
大人同士の恋って、こんなにあたたかく始まるものなんだなって思った。
帰り際、別れ際にそっと彼女を抱きしめたとき、
香水じゃない、彼女そのものの香りがして、ふわっとやわらかくて、
「あ、今ほんとに恋してるんだな」って思った。
それが、就活中に出会った彼女との、はじまりの話でした。
偶然って、ちゃんと信じてみてもいいのかもしれない。