中学生の頃、初めての恋をしたあの夏の日の思い出

中学2年の夏、僕は人生で初めて「恋」をした。
相手は同じクラスの斉藤さん。
目立つタイプじゃなかったけど、話すとふわっと笑ってくれて、どこか落ち着いた雰囲気があった。

席替えで前後の席になって、初めてちゃんと会話をしたのがきっかけだった。
「プリント、後ろに回して」
「はい、どうぞ」
それだけのやりとりだったのに、その日の夜、なぜか彼女の声が頭の中でリピートしていた。

それから、彼女の何気ないしぐさや、休み時間に読む本、誰かと笑い合う姿まで、全部が気になるようになっていった。
「あれ、これって…好きってことなのかな」
当時の僕にとって、それはかなり勇気のいる認識だった。

ある日、帰り道が偶然一緒になった。
彼女は部活が終わるのが遅くて、僕は図書室に寄っていたから、時間が重なった。

「斉藤さん、どこまで帰るの?」
「駅の近くまで。〇〇くんは?」
「俺も、そっち方向」

嘘だった。ほんとは逆方向だったけど、どうしてももう少し一緒に歩きたかった。

夕方の帰り道、電線に並ぶカラスの声や、どこかの家から香る夕飯のにおい、彼女の歩くペース。
全部が、今でも思い出せるくらい、心に残っている。

「…〇〇くん、なんか今日静かだね」
「え?あ、そうかな」

彼女と話してるときは、心臓がずっと騒がしかった。
落ち着こうとしても、うまく言葉が出てこなかった。

そして迎えた、夏休み前の終業式の日。
僕は、思いきって告白をすることにした。

友達に「手紙とかダサい」とか言われたけど、どうしても面と向かっては言えそうにない。
だから、放課後の帰り際、下駄箱で小さな封筒を彼女に渡した。

「…これ、よかったら読んで」

家に帰ってからは、もう落ち着かなかった。
ご飯の味もわからず、テレビも頭に入らず。

その夜、彼女からLINEがきた。
「手紙、読んだよ。ありがとう。びっくりしたけど、嬉しかった」
そして、最後にこう書いてあった。

「私も、少し前から気になってました。よかったら、夏休み、一緒にどこか行きませんか?」

スマホの画面を見ながら、顔が熱くなって、意味もなく部屋の中をぐるぐる歩き回った。
嬉しくて、どうにかなりそうだった。

そして迎えた、ふたりでの初デート。
場所は市内のショッピングモール。お互いの地元の小さな場所だったけど、僕にとっては世界の中心だった。

一緒にアイスを食べて、雑貨屋で文房具を眺めて、ゲームコーナーではちょっとはしゃいだ。
何気ない時間が、まるで特別なイベントのようだった。

帰り際、駅のベンチで並んで座ったとき。
彼女が、ふいに手を伸ばしてきて、僕の手に触れた。

「ねえ、今日すごく楽しかった」
「うん、俺も。…ありがとう」

そして、彼女が少しだけ顔を近づけてきて、そっとキスをした。
ほんの一瞬。だけど、その瞬間、時間が止まったような気がした。

あの夏の夕暮れの匂い、彼女の横顔、風の音。
全部が、僕の中でずっと輝いている。

今はもう、お互い違う道を歩いてる。
でも、中学生の頃のあの恋は、僕にとって「はじめて本気で人を好きになった記憶」として、確かに残っている。

あれが「初恋」だったと、今では胸を張って言える。