消しゴム半分こが、私の初恋だった、放課後の教室で芽生えた、小さな秘密

私たちの「恋」は、消しゴム半分こから始まったんだ。

小学4年生の、少し肌寒い秋の日。私は算数の授業で、うっかり消しゴムを落としてしまった。床に転がった消しゴムは、運悪く机の隙間に入り込んで、どうしても手が届かない。どうしよう、もうすぐ授業が終わるのに…。焦っている私に、隣の席のタケシが、何も言わずに自分の消しゴムを差し出してくれた。

タケシは、クラスで一番足が速くて、いつもサッカーばかりしてる男の子。女の子とはあんまり話さないから、まさか彼が助けてくれるなんて思ってなくて、私はびっくりして固まっちゃった。

「…半分こ、する?」

タケシが、私の顔を見ずに、消しゴムを真ん中でパキッと折って、半分を私に差し出した。折れた消しゴムの断面は、ちょっとギザギザしてる。でも、そのギザギザが、なんだか彼の不器用な優しさみたいで、私の胸の奥がキュンってなったんだ。彼の手から伝わる、消しゴムの冷たさと、微かな彼の体温が、私の指先にじんわりと残ったのを覚えてる。

それから、タケシと私は、なんだか特別な関係になった気がした。他の子たちには内緒で、放課後、誰もいなくなった教室で、よく二人だけで宿題をした。彼が分からない問題を教えてくれたり、私が漢字を間違えると、隣でクスクス笑ったり。彼の鉛筆の音が、私の隣でシャリシャリって聞こえるだけで、私の心臓はドクドクと早く脈打った。時々、彼の肘が私の腕にそっと触れることがあって、そのたびに、私の体はピクッと反応しちゃう。彼の制服の匂い、鉛筆の匂い、そして少しだけ彼の汗の匂い。それが、私の「好き」の匂いになった。

ある日、タケシが私に、小さなノートを差し出した。

「これ…交換日記」

彼の顔は、耳まで真っ赤になってて、私なんか見られないって感じで、ノートをグッと押し付けてきた。私もドキドキしながらそれを受け取った。ノートを開くと、彼の丸っこい字で、「秘密」って書いてあった。私たちの、小さな秘密。そのノートを握りしめる私の手は、汗でじんわりと湿ってた。

日記には、今日の出来事とか、好きなテレビ番組のこととか、他愛ないことが書かれていたけれど、一番嬉しかったのは、彼が私のことを「おまえ」じゃなくて、「〇〇(私の名前)」って書いてくれたこと。それだけで、私の心は、フワッと宙に浮くみたいだった。

週末、タケシと二人で公園に行った時、滑り台のてっぺんで、彼が私にそっと言ったんだ。

「あのさ、俺、おまえのこと…」

続きが気になって、私の心臓が爆発しそうだった。でも、その時、遠くから他の友達が「タケシー!」って呼ぶ声が聞こえてきて、彼は最後まで言ってくれなかった。ちょっとがっかりしたけど、でも、続きが聞けないのが、なんだか甘くて、もっと彼のことが知りたくなる、そんな気持ちにさせてくれた。

初めての、おませな恋。消しゴムの半分こが、交換日記が、そして、届かなかった「好き」の言葉が、私の小学生時代のすべてだった。あの頃の私は、タケシの隣にいるだけで幸せで、彼の指が少し触れるだけで、胸が熱くなった。

今でも、消しゴムを見るたびに、あのギザギザの断面と、タケシの不器用な優しさを思い出す。あれが、私の初恋だった。純粋で、ちょっと背伸びしてて、でも、誰よりも真剣だった、私だけの秘密の恋。