手をつなぐことが、こんなに大事だったなんて。

最初に彼の手に触れたのは、たしか、あの日だった。

 金曜日の夜。サークルの飲み会のあと、最寄りの駅までふたりで歩いていた。酔ってはいなかったけど、夜の空気に少しだけ浮かれていたのは、きっとどちらも同じだったと思う。

 彼とは、付き合って三ヶ月。でも、それまで手をつないだことはなかった。キスも、まだ。

 私の中に、どこか臆病な部分があって──「触れる」っていう行為が、どこか怖かった。

 でもその夜、信号待ちで立ち止まった時、彼が不意に言った。

「……手、つないでもいい?」

 あまりに唐突で、返事が遅れた。けれど、彼はちゃんと待ってくれていた。

 うん、と小さく頷くと、彼はゆっくりと私の手をとった。ふわっと、包みこむように。

 指先がじんわりとあたたかくなった。心臓の鼓動が、耳に届くほど大きくなる。うまく歩けないくらい、足の裏がふわふわしてた。

「……なんか、緊張するね」

 思わず口に出すと、彼は笑ってくれた。

「うん。でも、うれしい」

 その言葉だけで、なんだか涙が出そうになった。今まで、いろんな人と出会って、いろんな風に優しくされたことはある。でも、こんなに“ちゃんと触れてくれた”人は、彼が初めてだったかもしれない。

 そのまま、無言で歩いた。何も言わなくても、伝わってる気がした。

 駅の改札が見えてきたとき、ほんの少し、手をぎゅっと握った。彼も同じように、ぎゅっとしてくれた。

 キスもしなかった。抱きしめもしなかった。ただ、手をつないだだけ。

 でも、それだけで。

 私はこの人と、もっと一緒にいたいって、心から思った。

 帰りの電車の中、何度も自分の手を見た。あの人のぬくもりが、ちゃんとそこに残っていて、何度も、何度も、思い出してしまった。

 きっと私は、あの夜、恋に落ち直したんだと思う。