俺が毎日のようにログインしてるオンラインゲームには、ギルドっていう仲間のグループがある。その中で、いつも一緒にプレイしてたのが「はるる」って名前のプレイヤーだった。
男か女かもわからなかったけど、やたら気が合って、いつの間にかゲーム以外のことも話すようになってた。
「まじでそれ会社であったやつw」
「え、社会人だったんだ?」
「うん、営業。ゲームしてないと死ぬ」
「わかるw」
自然な流れでLINE交換して、通話もするようになって――
ある日、ふいにこんなメッセージがきた。
「ねぇ、リアルで会ってみる?」
一瞬、スマホ握ったまま動けなかった。
でも、正直、ちょっと前からそう思ってたのは俺も同じだった。
場所は、新宿。昼間に駅前のカフェで待ち合わせ。
はるるのリアルネームは遥(はるか)。
同い年で、事務職らしい。
通話では明るいタイプだけど、実際に会うのは初めて。写真交換はしてなかったから、どんな見た目かも想像できなかった。
「こっちが先に見つけたら声かけるね」って言ってた遥から、「着いたよ」とLINEが来た。
キョロキョロしてたら、ふわっとした白のカーディガン着て、小柄で黒髪ボブの女の子が、スマホ見ながら立ってた。
めちゃくちゃ可愛かった。
声かけた瞬間、彼女はびっくりした顔して、それから少し照れくさそうに笑った。
「想像より……ずっと大人っぽい人だね」
「いやいや、そっちこそ」
カフェに入って、やや緊張しながらも、話はスムーズだった。
オンラインで話してた頃と、まったく違和感がない。
「リアルで会うって、もっと緊張するかと思ったけど、案外ふつうだね」
「ふつうっていうか、たぶん、ずっと前から知ってた感じあるからじゃない?」
それから俺たちは、そのままゲームセンター行って、プリクラ撮って、雑貨屋とかウィンドウショッピングして。
はるる――遥は、意外とぬいぐるみとか見るの好きらしくて、「これ、ギルチャで誰かが使ってそうなスタンプっぽくない?」って笑ってた。
夕方、カフェに戻ったとき、ちょっとした沈黙が流れた。
「ねえ、今日……来てよかった?」
俺がそう聞くと、遥は一瞬きょとんとして、それから少しだけ唇をかんで言った。
「うん。……すっごく、よかった」
その言い方が、なんか可愛くて、ちょっとだけ胸が苦しくなった。
「また会える?」
「もちろん。ていうか、今日一緒に帰りたくない」
思わず顔を見合わせて、ふたりで笑った。
その後、駅の改札前まで送った時、遥は立ち止まって、少し照れたように言った。
「ねぇ……今、手、つないでくれたら嬉しいかも」
言われてすぐ、自然に手を出した。
指先がふるえてたのは、きっと彼女だけじゃなかったと思う。
そのまま並んで歩いた数分間は、今でも鮮明に覚えてる。
画面越しじゃ伝わらなかった、手のあたたかさ。
通話じゃわからなかった、声の震え。
別れ際、ぎこちなく「じゃあ、またね」と言った遥は、
帰り際に振り返って、軽く手を振ってくれた。
俺はその夜、ゲームにはログインしなかった。
代わりに、送られてきたLINEの一文を、何度も読み返してた。
「今日はありがとう。会ったらもっと好きになっちゃいそうで、ちょっと怖かった」
たぶん俺たち、恋が始まった瞬間に、もう知ってたんだと思う。
画面の中じゃない場所で、ちゃんと会えて、本当によかった。
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