その子は、同じ職場の経理の佐伯さん。年はひとつ下で、メガネをかけた地味めな子。声も小さいし、あまり人としゃべってるのを見たことがない。
でも、ある日、社内システムのトラブルがあって、俺が対応してたら、「お手数かけてすみません……」って、少しだけ距離を詰めてきた。
それから、週末の昼にたまたま社外で会って、コーヒーでもって流れで話してるうちに――「あの、もしよければ…今日だけ、避難させてもらっていいですか?」って。
どうやら、上の階の部屋が水漏れして、自分の部屋まで水が垂れてきたらしい。
俺は一応、軽く掃除してから「いいよ」って返事して、佐伯さんは控えめに、でもちょっと嬉しそうに俺の部屋にやってきた。
「ご迷惑でなければ、少しだけ……」
そう言って、コートを脱いだ佐伯さんは、私服だと意外にスタイルがよくて――
しかも、メガネを外して髪を耳にかけたら、まるで別人みたいに綺麗だった。
「…あんまり見ないでください」って、顔を少し背けるその仕草に、たぶん俺、心臓止まりかけた。
「お茶とか飲む? てか、緊張してない?」
「…してます。すごく。たぶん、今日、ちゃんと人の家に行くの、初めてで」
それから、ソファで並んで映画を見て。最初は距離を取ってたのに、途中で彼女がウトウトしはじめて――肩がちょこんと俺の方に乗ってきた。
「……ごめんなさい。眠くなってきちゃって」
「いいよ。寝てて」
でも、そのままじゃ彼女、変な体勢で首が痛くなりそうだったから、そっと俺の膝に頭を乗せさせた。彼女の髪から、ほのかにシャンプーの匂いがして、心臓がまたバグった。
寝息を立ててる佐伯さんを見ながら、俺はなんとなく思った。
――この人、きっとすごく恋に不器用なんだろうな。
そして、その不器用さが、なんだかすごく愛しく思えた夜だった。