彼の声だけが、わたしの不安を溶かしてくれた

誰にも言えないことって、あるよね。
何かに傷ついて、うまく笑えなくなって、
それでも誰かに気づかれたくないって、必死になって。

あの頃のわたしは、まさにそうだった。

学校でも、家でも、
ずっと“いい子”でいなきゃいけないって思ってた。

誰かに迷惑をかけたら嫌われる。
弱音なんて、吐いたら負けだ。
そんな風に、自分を押し込めてた。

彼と出会ったのは、バイト先だった。

はじめて話したとき、
声が、ちょっとだけくすぐったかった。

「これ、美味しそうだね」
そんな些細なひと言に、思わず笑ってしまった。

不思議だった。

誰にも見せたくなかった“素の顔”を、
彼の前だと、無理せず出せた。

無口で、でもちゃんと見てくれてて、
わたしが黙っていても「大丈夫?」って聞いてくれた。

その声が、わたしの心の奥に、そっと触れてきた。

ある日、閉店後にふたりきりになった。

「今日、元気なかったね」
彼は、真正面からそう言った。

黙っていたわたしに、
「話さなくてもいいけど、俺は聞くよ」って。

その瞬間、涙が止まらなくなった。

誰にも言えなかったことが、
なぜか、彼には言えた。

誰も信じられなかったのに、
彼の声だけは、嘘じゃないって思えた。

それから、少しずつ変わっていった。

無理して笑わなくなった。
疲れた日は、疲れたって言えるようになった。
誰かに頼ることを、少しずつ覚えていった。

全部、
彼の声が教えてくれたこと。

「無理しなくていい」って、
言葉の奥に“信じてくれてる気持ち”が込められてたから。

わたしの恋は、
きっと“安心”から始まったんだと思う。

声って、不思議だよね。
耳で聞いてるのに、
一番響いたのは、心の奥だった。