あの日のデートは、始まりから終わりまで、私の心臓をずっと鷲掴みにされているみたいだった。
彼とは、大学に入ってから出会った。最初はただのクラスメイトだったのに、グループワークで一緒になってから、彼の意外な一面を知ったんだ。口数は少なくて、ちょっとぶっきっちょなところもあるけれど、実はすごく周りのことをよく見ていて、いざという時にはいつも私を助けてくれる。そんな彼の不器用な優しさに、私はいつの間にか惹かれていた。
初めての二人きりのデート。私たちは、公園を散歩したり、カフェでおしゃべりしたりして、あっという間に時間が過ぎていった。夕暮れ時、彼が「行きたいところがある」って言って、私の手を引いた。彼の指が、私の指にそっと触れた時、私の体中に甘い電流が走った。そして、そのまま優しく、でもしっかりと、私の手をぎゅっと握ってくれたんだ。
彼の掌は、私より少し大きくて、指の節がごつごつしてた。その手のひらから伝わる温かさが、私の手のひら全体にじんわりと広がって、胸の奥がキュンとなった。夏の終わりの、少し汗ばんだ指先が、彼と繋がっている。それだけで、世界中の全てが、輝いて見えた。彼の隣を歩くたびに、繋いだ手から、彼の体温が私の中に流れ込んでくるみたいで、私はただ、その温かさに浸っていたかった。
彼が私を連れてきてくれたのは、丘の上にある小さな展望台だった。そこからは、街の灯りがキラキラと瞬いていて、まるで宝石箱みたいだった。夜風が心地よくて、空にはたくさんの星が輝いていた。二人で並んで夜景を見ていると、彼が突然、ポケットから何かを取り出した。
「これ…」
彼が差し出したのは、小さな手作りの花束だった。色とりどりの野花を、少し不器用な手つきで束ねたもの。彼の顔は、夜景の光の中でもわかるくらい、耳まで真っ赤になっていた。
「さっき、公園で…咲いてるの、可愛かったから」
そう言って俯く彼に、私の心はドクンと大きく鳴った。まさか、彼がこんなサプライズをしてくれるなんて。普段、感情を表に出さない彼が、私のために、こんなに一生懸命考えてくれたんだって思ったら、涙が溢れてきた。花束を受け取ると、まだ彼の指の温もりが残っていて、野花の匂いと、彼の優しい匂いが混じり合って、私を包み込んだ。
「ありがとう…すごく、嬉しい」
涙で声が震える私を見て、彼は少し困ったような顔をした後、私の顔をじっと見つめて、一歩近づいてきた。そして、繋いでいた私の手を、もう一度強く、ぎゅっと握り直したんだ。
「あのさ…好きだ」
彼の声は、少し震えていたけれど、真っ直ぐに私の心に響いた。その瞬間、私の心臓は、もう破裂しそうなくらいドキドキした。夜空の星が、彼の言葉に合わせてキラキラと輝き出したみたいだった。私は何も言えなくて、ただ彼の顔を見つめることしかできなかった。
彼が、繋いだ手を少しだけ上に持ち上げて、私の手の甲にそっとキスをした。
その柔らかい唇の感触に、私の体は、まるで溶けていくみたいだった。手の甲から、甘くて温かい感覚が全身に広がって、私の心は彼の優しさに満たされていく。彼の吐息が、温かく手の甲にかかるのが、なんだかくすぐったくて、でも、とても幸せだった。
彼の不器用な優しさが、花束も、夜景も、告白の言葉も、全てを特別なものにしてくれた。ぎゅっと握られた手と、手の甲に触れた唇の感触は、今でも鮮明に私の心に残っている。あの日の夜景は、私たち二人の、忘れられない愛の始まりの光だった。