「ねぇ、京都って行き慣れてる?」
急にそんなLINEが届いたのは、水曜日の昼休み。相手は社外の取引先の人、って言うとちょっと堅苦しいけど、実際はイベント企画会社の営業担当で、たまに仕事で電話したり、打ち合わせで顔を合わせるくらいの距離感の男性。
年齢はたぶん私と同じくらい。名前は戸田くん。
なんでそんな人から京都の話?って思いながらも、「まぁまぁ行くよ。観光なら案内もできるかも?」って返した。
すると、
「じゃあさ、今週末、どっか連れてってくれない?」
──え?デート?いやいや、そんなはずは…
彼曰く、大阪にはよく来るけど、京都は土地勘がないらしい。「一人で行くのもつまらんし、良かったら一緒にどう?」と、ものすごく軽いノリで聞いてきた。
まぁ、興味本位もあったし、会話のテンポも悪くないし。何より、私の地元・大阪を飛び出して誰かと京都で過ごすって、それだけでちょっとした冒険みたいだった。
土曜の朝、待ち合わせはJR京都駅の中央口。実はこういう時って、服にめっちゃ悩む。あんまり気合い入れすぎても変だし、手抜きすぎてもそれっぽくないし。
悩んだ末、ブラウスにロングスカート、足元は歩きやすいスニーカーにした。
「お、意外とちゃんと京都案内してくれそうな格好やな」
開口一番に言われて、ちょっと笑った。
最初に向かったのは【伏見稲荷大社】。定番だけど、朱色の鳥居が延々と続く風景は、やっぱり圧巻。外国人観光客が多かったけど、彼と並んで歩いてると不思議と落ち着いた。
「こんなに歩くと思ってなかったわ〜」ってぼやきながらも、彼はちゃんと最後まで鳥居の坂道を登った。途中で、私のリュックの紐がずれて「直そうか?」って言われたとき、なんかドキッとしてしまった。
次に行ったのは【南禅寺】。紅葉にはまだ早かったけど、水路閣のレンガ造りが独特で、映えスポットとしても人気らしい。
「なんか、デートっぽいとこ来てるな俺ら」
「いや、観光案内だってば」
「でも、俺ちょっと楽しんでるかも」
──あぁ、もう、そんなこと言われたら。
そのあと【嵐山】へ移動して、渡月橋を渡ったあたりでちょっと休憩。川沿いに腰かけて、彼は「こんな風に誰かと観光するの、久しぶりやわ」ってしみじみしてた。
「じゃあ、私が最初の人?」
「いや、最後の人かも」
言ってから照れくさそうに笑う顔が、ちょっとだけずるいと思った。
ランチは【嵯峨野湯】っていう、お風呂屋さんを改装したカフェで。ここ、女子ウケしそうでしょ?って言ったら、「そういうとこ調べてくるあたり、完全に女子やな」って返された。
いや、女子ですけど。
ごはん食べながら、お互いの仕事のこと、恋愛のこと、ちょっとずつ深い話をした。彼は1年前に彼女と別れてから、ずっと一人らしい。
「なんか、会話のテンポ合うよな。居心地ええわ」
「ありがと。でも今日だけやで、たぶん」
「うそつけ。また誘ったら来るくせに」
──なんかもう、この人、距離の詰め方うまいなぁ。
夕方、最後に【八坂神社】へ立ち寄って、「縁結びのご利益あるって有名やで」と教えると、彼が「じゃあ、お参りしとくか」って真面目に手を合わせてた。
「なに願ったの?」
「内緒。叶ったら教える」
じゃあ私も…と思って、私は心の中でこうお願いした。
“この関係が、ちゃんと恋に変わりますように”
バス停までの道で、彼がふいに「京都って、遠いけどまた来たいわ」って呟いた。
「案内してくれるなら、何回でも行くで?」
「じゃあ…そのときも私でいい?」
「うん、君がいい」
その言葉が、なんかやけに胸に残った。
告白とか、手を繋ぐとか、そういう進展はなかったけど。
それでも、心はちょっとずつ動いてる気がした。
次の週、彼から「今度は大阪、案内してくれる?」ってLINEが来た。
今度は私の番だ。
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