あの人、初めて会った気がしなかった――陶芸教室で出会った彼と

大学の卒業を控えていた冬、私は就活や卒論の疲れから、心が少しだけすり減っていた。

家と大学、図書館とカフェを往復するだけの日々。
SNSを見ても、誰かと比べては落ち込んでばかり。

そんなとき、たまたま駅前で見かけたポスターが目に留まった。
「初心者歓迎・陶芸教室 体験受付中」

ずっと何か“手で形に残るもの”が欲しかった私は、衝動的に申し込んでいた。

教室に行くと、想像よりも若い人が多く、ホッとした。
中でも、私の隣の席に座っていた男性――
やわらかい空気をまとったその人に、なぜか“初めてじゃない感覚”を抱いた。

「はじめまして、湊斗(みなと)です」

その名前にも、なぜか胸がきゅっとなった。

「初めまして。……千景(ちかげ)って言います」
自分の声が少しだけ震えていたのを、今でも覚えている。

陶芸は難しくて、粘土が思うように言うことをきいてくれない。
でも、不思議とそのもどかしさが心地よかった。

「千景さん、手つきが優しいね」
「えっ、そうですか? 湊斗さん、器用ですよね」

作業の合間にそんな会話を交わしながら、自然と距離は縮んでいった。

全6回のコースだったけれど、2回目には連絡先を交換し、4回目には一緒にカフェへ。
その頃には、私の中にあった“初めてじゃない気がする”という感覚は、
「もっと一緒にいたい」に変わっていた。

でも、最終日の前日、私は告げられた。

「実は、来月から関西に戻るんだ。転職が決まってて」

内心、ショックだった。
でも彼は続けた。

「でも、陶芸教室に通おうって思ったのは、本当は地元を離れるのが怖かったからで……
この場所で、千景さんに会えてよかったって、本当に思ってる」

私は何も言えなくて、ただ頷いた。

最終日、私たちは隣同士で最後の仕上げをしていた。
言葉は少なかったけど、間に流れる空気が優しかった。

「また会えたら、また一緒に土、こねましょう」
そう言って、彼は笑った。

私は、ただ「うん」と答えた。

その返事に、気持ちの半分も込められなかった気がして、帰り道ずっと後悔してた。

3か月後、出来上がった作品が自宅に届いた。
土の温かさが残るような、少し不格好な湯のみと小皿。

その箱の中に、彼からのメモが入っていた。

「あの日の空気が忘れられません。もしまた東京に行くことがあったら、連絡してもいいですか?」

その瞬間、胸の奥に埋め込まれていた恋心が、ぽっと灯った気がした。

私はすぐに返信した。

「そのときは、また一緒にこねましょう。できれば今度は、少しずつ恋も」

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