「ねぇ、久しぶり。元気してる?」って、スマホに届いたLINEの名前を見た瞬間、心臓が跳ねた。
大和からだった。
最後に話したのは、たぶん卒業式のときだった気がする。それからずっと連絡をとってなかったのに、なぜか突然思い出したようにメッセージが届いて、私は息を呑んだ。
あのキスのことを、私はいまだにちゃんと消化できてないままだから。
──高校2年の夏。
その日は、たまたま放課後に提出物を忘れて教室に戻ったら、大和が一人で机に突っ伏していた。クラスのムードメーカーで、いつも冗談ばかり言って、みんなの中心にいるような存在だったのに、そのときの背中は妙に静かだった。
「……どしたの?」
声をかけると、大和はちょっとだけ顔を上げて、「あー、〇〇か。なんでもない」って、いつもの調子で笑った。でも、目が全然笑ってなかった。
「本当に?」って聞くと、「ちょっと疲れただけ」って、また笑った。でも私は、そのとき、何かがおかしいって分かった。
「嘘つくとき、左の眉だけ上がるの知ってる?」
私がそう言ったら、大和は「マジで?キモ」って笑った。でも、そのあと、ふっと表情が抜けた。
「……おまえ、俺のことよく見てんな」
「だって、友達でしょ」
「友達……ね」
その“ね”が、やけに優しくて、怖かった。
次の瞬間だった。
大和が、私の肩を掴んで、ゆっくり顔を近づけて──キスをした。
時間が止まったみたいだった。唇が触れたのは、ほんの一瞬。でも、長く感じた。息をするのも忘れるくらい、頭が真っ白になって、言葉が出てこなかった。
「……ごめん」って彼が言ったあと、「でも、もう我慢できなかった」って小さく続けた。
「ふざけてるの?」って、やっと出てきた私の声は、震えてた。
「……違う」
「なんで、そんなこと……」
「ずっと前から、好きだった」
「友達でしょ……?」
「……友達でいられるほど、俺、器用じゃない」
そのあと、どうやって家に帰ったのか覚えてない。頭の中がぐちゃぐちゃで、大和の顔も、声も、全部渦の中に飲まれていった。
次の日も、普通に教室にいた彼は、いつも通りだった。でも、私にはそれが苦しかった。何もなかったように笑っている大和に、私はどう接していいか分からなかった。
少しずつ、話す回数が減っていって、LINEのやりとりもなくなって、グループで遊ぶことも減って──気づいたら、卒業式だった。
あのとき、私は逃げてしまったのかもしれない。気持ちに向き合うのが怖かった。
そして今、突然届いたLINE。
「この前、近くのカフェで君に似た子を見かけた。思わず声かけそうになった」
「でも、違ったから、ちゃんと連絡しようって思った」
大和の言葉に、胸の奥が、きゅっと音を立てた気がした。あのキスから始まった想いは、私の中でまだ終わってなかった。
──“友達”だったはずの彼に、私はちゃんと恋をしてたんだって、今さらだけど分かった。
返事を打つ指が少し震える。でも、もう逃げたくない。
「私も、あのときのこと、ちゃんと話したい」
そう返したあと、スマホを胸に抱えた。どきどきして、なかなか寝られなかった。
きっと、あのキスは“間違い”じゃなかった。そう思えるようになったのは、時間が過ぎて、私が少し大人になったからだと思う。