最後の夏祭り、彼の浴衣の袖をまだ覚えてる

SNSでたまたま流れてきた、地元の夏祭りの花火大会の写真。何気なくタップしたその一枚の中に、あの夏のことを急に思い出してしまった。浴衣の袖をふわっと揺らしていた彼の後ろ姿まで、こんなにもはっきり残ってるなんて、自分でも驚いてる。

達也と最後に話したのは、たしかあの夏祭りの日だった。高校3年の夏休み、受験ムードの中でどこか浮ついていた私は、制服じゃない彼に少しドキッとしていた。浴衣なんて着るイメージ全然なかったから。しかも、彼の浴衣姿って、なんだか妙に大人びて見えた。

もともと彼とは同じクラスで、席も近かったし、グループで話すことは多かった。でも二人きりになったことはなくて、だから誘ったとき、自分でもちょっと無謀だったかなって思ってた。でも、達也は「いいよ」って、静かに笑っただけだった。

夏祭り当日、私は焦って髪を結い直したり、何度も鏡を見たりしてて、待ち合わせの神社前に少し遅れてしまった。でも彼は、提灯の灯りの下で、黙って私を待ってた。あのときの表情、すごく優しかったな。

「浴衣、似合ってる」って彼が言ってくれたとき、耳まで真っ赤になったのを今でも覚えてる。こっちこそ、って言いたかったけど、うまく言葉が出てこなくて、ただ笑うしかできなかった。

屋台のたこ焼きを買って、ベンチで半分こした。ソースが彼の口の横について、「ついてるよ」って言ったら、「え、どこ?」って子供みたいに慌てて、笑っちゃった。なんか、その瞬間すごく好きだって思った。

境内の裏手の少し暗い場所で、花火が始まるのを待ってるとき、彼の手がほんの少し私の手に触れた。わざとじゃないって分かってたけど、内心めちゃくちゃ動揺してた。触れたところが熱を持ったようで、うまく息ができなかった。

「花火、もうすぐ始まるね」って彼がぽつりと呟いて、私はその声に合わせるように「うん」って返した。会話はそれだけなのに、不思議と心が満たされていく感じがした。

大きな音とともに空に咲いた花火は、ただ綺麗で、でもなんだか泣きたくなるくらい切なかった。たぶん、そのときもう分かってたんだと思う。夏が終われば、あの距離は戻らないってこと。

ふと彼の横顔を見たら、まっすぐ空を見てて、その瞳がどこか遠くにあるような気がして、言葉が詰まった。「好き」って言えば、もしかしたら何か変わったのかもしれない。でも、言えなかった。

帰り道、駅までの途中、誰もいない道を歩きながら、私はただ黙って隣を歩いた。何か言いたかったけど、何を言えばいいのか分からなかった。彼も同じだったのかもしれない。沈黙は妙に心地よくて、でも同時に残酷だった。

電車のホームで、彼が「じゃあ、頑張ってね。受験」と言ってくれたとき、「うん、達也もね」って笑顔で返した。でも、本当はそんな話じゃなくて、「もっと一緒にいたい」って言いたかった。

それが最後だった。彼とは同じ大学には行かなかったし、卒業後も一度も会っていない。でも、あの夏の夜だけは、今でも脳裏に焼き付いてる。

たまに、夢に出てくることがある。浴衣姿で、花火を見上げながら笑ってる彼。夢の中の私は、ちゃんと告白してるのに、目が覚めるとやっぱり、言えなかった現実だけが残る。

あのときもう少しだけ勇気があれば、何か変わっていたのかな……って、いまだに思う。でも、あの夜の思い出は、何も変えたくないような気もしてる。

人を好きになるって、こんなに切ないことなんだって、初めて知った夏だった。

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