SNSを見ていたら、偶然、恭也が写ってる集合写真が流れてきた。卒業してもう何年も経つのに、あの横顔だけはすぐに分かった。なんでこんなにも心が反応するのか、自分でも分からなかったけど……気づいたら、画面をスクロールする手が止まっていた。
あの頃の私は、少しだけ“悪いこと”をしていた。
「ねぇ、お願い。あの人のこと探りたいから、ちょっとだけ彼女のふりしてみてくれない?」
そう言ったのは、当時仲が良かった友達だった。彼女は同じ学年の別クラスにいる男子、恭也のことをずっと気にしていて、でも直接話しかける勇気がなかったらしい。だから私が彼の気を引いて、そこから情報を得てきてほしいって。
最初は軽い気持ちだった。恭也は無口で、教室でも目立つタイプじゃない。でも、どこか雰囲気がある人で、目が合うと逸らせなくなるような、そんな空気を纏っていた。
「なに、俺のこと好きなの?」って、最初に声をかけたとき、ちょっと小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。私は「まあ、そんなとこ」って笑って返した。嘘なのに、その笑顔が胸に引っかかった。
週に何回か、昇降口や購買で偶然を装ってすれ違うようにしていたら、いつの間にか彼の方から話しかけてくるようになった。
「また会ったな」
「ね、運命かな」
そんなやりとりが増えていって、気づけばLINEもするようになって、放課後にふたりで歩くことも、自然になっていった。
最初は、全部“作戦”だったはずだった。
でも、彼の横顔を見ている時間が好きで、無口だけど時々不意にくれる優しさが心にしみて、気づいたら、私は本気になってた。
「俺、〇〇といると、落ち着く」
そんなことをぽつりと言われたとき、涙が出そうになった。私のこと、ちゃんと見てくれてるのかなって。
でも、同時に“嘘”を積み重ねてきたことが、どんどん自分を苦しめていった。友達には「どうだった?」と聞かれ、「まだよくわかんない」とごまかすようになった。
本当は、もう彼に触れてはいけない気がしていた。
ある日、彼が「本当に俺のこと、好き?」って聞いてきた。
私は、答えられなかった。
言いたかったのに。好きって言いたかったのに、「うん」って言えなかった。
その沈黙で、全部終わった。彼は、それ以上何も聞かずに「そっか」ってだけ言って、笑った。悲しいくらい、静かな笑い方だった。
その日以来、彼から連絡は来なくなって、私も、送れなかった。何かを伝える資格なんて、私にはなかったから。
結局、友達の恋も実らなかった。彼女は途中で別の人に惹かれて、いつの間にかその話も終わった。
私だけが、嘘の中で本気になって、でもなにも言えずに、置いてけぼりのまま季節を越えた。
いま、SNSの中で笑ってる恭也は、あの頃より少し柔らかい顔をしてた。誰と笑ってるんだろう。何を話してるんだろう。もう、私の知る彼じゃないかもしれない。でも、最後に見た彼の笑顔より、ずっと穏やかだった。
──嘘から始まった関係だった。
でも、最後だけは、本気だったんだよ。
その言葉を、やっと自分に許せるようになった気がした。