昔から仲の良かった近所のお姉さんと、恋人になった夏のこと

子どもの頃から、3つ年上の優衣さんは“優しいお姉さん”だった。
実家の隣に住んでいて、夏休みのラジオ体操、学校の帰り道、台風の夜の停電──
思い出のなかには、いつも彼女がいた。

僕が小学生のころ、優衣さんは中学生で、少し大人びていて。
中学に入ったころには、「子供みたいに扱われてる気がする」と内心拗ねてたこともある。

それでも、社会人になって久しぶりに実家に帰省した夏。
ふいに再会した優衣さんは、変わっていた。
というより、僕の見方が変わっていたのかもしれない。

「えっ、もう大学4年? そっかあ…小学生だったのに、そりゃ私も老けるわけだ」
「いやいや、全然変わらないっすよ。むしろ、なんかきれいになった気が」

思わず出た言葉に、自分でもびっくりした。
優衣さんは一瞬黙って、それからふっと笑った。
「うわ、それ、素直に嬉しい」

それが、今の関係が始まった最初だった。

その日から、帰省中の間に何度かごはんを食べることになって、
気づけば昔のように自然に笑い合えるようになっていた。

でも、ある夜。
地元の夏祭りで一緒に歩いた帰り道、少しだけ空気が変わった。

「もう帰る?」と聞かれて、「もうちょっとだけ」って答えた僕。
人が少ない神社の境内で並んで座っていたら、
ふいに彼女の肩に触れたくなって、でも、ためらって。

「昔はさ、あんたのこと完全に弟扱いしてたんだよ?」
「…今も?」

「違うよ、もう。…正直、ちょっとドキドキしてるし」

その一言で、心臓が跳ねた。

「優衣さんのこと、昔から特別だった。でも今は、それとは違う気持ちだと思ってる」

自分でも驚くほどまっすぐに言葉が出てきて、
優衣さんは少し目を伏せたまま、でも拒否するでもなく、肩にそっと寄りかかってきた。

そのまま、自然に彼女を抱き寄せた。
近づいた距離に、微かに感じた香水の匂いと、やわらかい感触に、頭が少し真っ白になった。

「…あんた、ちょっとだけ男の顔になったね」

冗談めいた声だったけど、照れ隠しだってすぐわかった。
ドキドキしてたけど、不思議と心が落ち着いていた。

その夜、何かが確かに変わった。
子ども扱いされていた関係はもう終わって、
目の前の彼女を“好きな人”としてちゃんと見られている自分がいた。

それから少しずつ、やり取りを続けるようになって、
帰省が終わる頃、「遠距離でも大丈夫だと思う?」と聞かれた。

僕は即答した。
「今さら、離れても気持ちが戻る気がしないから」

今も、月に一度はどちらかが会いに行ってる。
変わらず“お姉さん”っぽいところもあるけど、
今はちゃんと“彼女”として、僕の隣にいてくれている。

あの夏の、ちょっとだけ勇気を出した帰り道が、
僕の初めての本気の恋のはじまりでした。