放課後の教室。
窓から差し込む夕陽が、床や机に長く伸びて、空気までオレンジ色に染めていた。
廊下から聞こえるのは、部活の掛け声やボールの音が遠くに響くだけ。
教室の中には、私と彼──二人きり。
私はまだ宿題の続きをしていて、彼はその横でノートを広げていた。
チョークの粉の匂いと、カーテンが風で揺れる音。
鉛筆の先が紙を擦るシャッシャッという音がやけに大きく聞こえる。
ふいに、彼が私のノートを覗き込んで、
「これ、字かわいいね」って笑った。
声が近くて、ちょっとくすぐったい。
目を上げると、距離が思ったよりも近くて、心臓が跳ねた。
何か返そうとしたけど、喉が詰まって声が出ない。
すると、机の上で彼の指先が私の手の甲に、ふっと触れた。
本当に一瞬なのに、その部分から心臓まで電気が走ったみたいに熱くなる。
「……寒くない?」
そう言って、彼が私の手を包み込むように重ねてきた。
あたたかい。
少しざらっとした感触と、指先の力加減が優しくて、
その温度が腕から肩、胸の奥へじんわり広がっていく。
視線を落とすと、二人の手が重なっている光景がやけに鮮明に見えて、
それが何よりも恥ずかしくて、でも嬉しい。
夕陽の光がその手を照らして、指の間に影を落としていた。
風がカーテンを揺らし、その向こうに見える空は、
オレンジから少しずつ紫に変わりはじめている。
外の景色も音も、すべてが今だけの背景みたいに感じた。
「……このまま、ちょっとだけ」
彼が小さくつぶやいた声が、
耳の奥でずっと残って、体温が上がっていく。
時間が止まったみたいで、
きっと何年たっても、この温度と色と匂いを一緒に思い出すんだろうな──
そんな予感と一緒に、胸がぎゅっと締めつけられた。