大学の2年の終わり頃、私は春音(はるね)という子とよく一緒にいた。
サークルもクラスも違ったけれど、共通の友人の誕生日会で隣に座ったのがきっかけだった。
「音楽、なに聴くの?」
たったそれだけの質問に、彼女がすごく嬉しそうな顔をして語り出したのを覚えている。
そこから話がはずんで、気づけば夜遅くまで2人で残っていた。
それからは、週に1回は会うようになった。
同じ映画を観たり、図書館で勉強したり、どちらからともなくLINEを送って、今日の空気や日常を共有した。
周囲からは「付き合ってるの?」とよく聞かれた。
でも、そうじゃなかった。
私たちは、いつも絶妙な“半歩手前”の距離で止まっていた。
春音は、とても気遣いができる子だった。
誰かの誕生日には手作りのお菓子を渡すような人で、でも自分のことはあまり話さなかった。
だから、私も気づかないふりをしていた。
本当はもっと近づきたいと思っていたこと。
手をつないでみたいと思っていたこと。
名前じゃなくて、もっと特別な呼び方で呼びたかったこと。
それでも、その関係を壊すのが怖かった。
3年の夏、ゼミや就活で忙しくなり、お互いの生活リズムがずれてきた。
会う頻度が少しずつ減っていった。
それでも、春音からはたまに「空、きれいだったよ」とか、「今度、またカフェ行こうね」とか、ふとしたLINEが来た。
私も、気づかないふりをして、あいまいな返事をしていた。
あの頃、なんでちゃんと向き合えなかったんだろう。
そして秋、突然春音から「会って話したいことがある」と連絡が来た。
久しぶりに会った彼女は、少しだけ痩せて見えた。
「実はね、関西の企業に内定もらって、来年からそっちに引っ越すの」
その一言に、心がきゅっと締めつけられた。
「それって……もう、東京には戻らない感じ?」
「うん。しばらくは向こうに住むと思う」
そのあと、少しの沈黙があって、春音は小さな声で言った。
「私ね、ほんとは……○○くんと一緒にいる時間、すごく好きだったよ」
一瞬、時間が止まった。
でも私は、「俺も」って言えなかった。
「ありがとう。俺も、楽しかった」
それが精一杯だった。
それから、彼女は引っ越していった。
連絡先は変わっていないけれど、もうあの頃のように毎日話すこともなくなった。
SNSで彼女が写っている写真を見ると、相変わらず笑っていて、でもどこか“遠い人”になった気がした。
あれから3年。
時々、あのときの会話を思い出す。
もしあの時、「好きだよ」って言えていたら。
私たちはどうなっていたんだろう。
答えは出ないまま、季節だけがまた巡っていく。
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