教室の隅にいた君、同窓会で気づいた私の知らない横顔

高校の卒業から、もう10年が経っていた。

私は、高校時代、クラスの中心にいるような、いわゆる明るいタイプだった。彼とは、同じクラスだったけれど、正直、ほとんど話した記憶がない。彼は、教室の隅でいつも静かに本を読んでいて、クラスの輪にいることは少なかった。彼の名前も、顔も、なんとなく覚えている程度で、卒業してからは、彼の存在なんて、私の記憶からすっかり消えていた。

そんな彼と、同窓会で再会するなんて、夢にも思っていなかったんだ。

久しぶりに会うクラスメイトたちと、昔話で盛り上がっていると、ふと、部屋の入り口に、背が高くて、スラリとした男性が立っているのが見えた。どこか見覚えのあるその顔に、私は首を傾げた。その男性が、私に気づいて、少しだけはにかんだように微笑んだ。

「〇〇、久しぶり」

彼の声は、昔の記憶とは全く違う、低くて落ち着いた声だった。彼の名前を聞いて、私はハッとした。彼だった。昔、教室の隅にいた、あの彼。

彼は、すっかり大人になっていて、昔の垢抜けない雰囲気はもうどこにもなかった。シックなスーツを格好良く着こなしていて、彼の優しい瞳は、あの頃と変わらないけれど、どこか自信に満ちていた。私は、あまりのギャップに、言葉を失ってしまった。

その夜、私たちはたくさんの話をした。お互いの近況、仕事のこと、そして、高校時代の思い出。私が「昔の〇〇くんは、いつも静かに本を読んでたよね」と言うと、彼は少し照れたように笑った。

「あの頃は、人見知りで、話すのが苦手だったんだ。でも、〇〇のことは、いつも見てたよ」

彼の言葉に、私の心臓がドクンと大きく鳴った。まさか、あの頃から、彼は私を見ていてくれたなんて。私の知らなかった彼の横顔が、そこにはあった。

同窓会が終わって、私たちは二人で駅まで歩いた。誰もいない夜の道を、彼と二人で並んで歩く。彼の腕が、私の腕にかすかに触れるたびに、胸がキュンとなった。昔は、全く意識していなかったのに、今、隣を歩く彼は、私にとって、特別な存在になっていた。

駅の改札前で別れる時、彼は少しだけ寂しそうな顔をした。

「…もしよかったら、また、会えないかな?」

彼の声は、少しだけ震えていた。私は何も言えなくて、ただ小さく頷いた。すると、彼が私の手を、あの頃からは想像もできないくらい、優しく、そして強く掴んだ

彼の掌は、私よりも少し大きくて、温かかった。指の節が、私の指の隙間にゆっくりと絡んで、そして、しっかりと私の手を握りしめてくれた。彼の温かさが、私の手のひら全体にじんわりと伝わってきて、胸の奥がぎゅっと締め付けられた

昔のクラスメイトとの、再会から始まる逆転劇。教室の隅にいた彼が、今、私の隣で、私を一番大切に思ってくれている。この恋は、まるで物語みたいに、私の日常を、美しい色で染めていく。彼の温もりと、再会の夜に交わした言葉が、私にとって、かけがえのない宝物になったんだ。